それでは、企業は、従業員が出張中に健康的な習慣を身につけるよう支援するために、何ができるだろうか。我々が提案するのは、従業員への教育と、会社の出張方針の改善を組み合わせることだ。
第1に、そもそも出張中には、健康上よくない判断が生じやすいことを、従業員はまず認識する必要がある。フライドポテトとステーキ、夜遅くホテルのバーで飲むカクテルは、クライアントとの会議を1日中がんばったご褒美として、簡単に正当化できるだろう。だが、研究によれば、レストランの食事は家庭で料理した食事よりも、1人前当たりのカロリーが高く、1カロリー当たりの総脂肪量と飽和脂肪量も多く、食物繊維の含有量は少ない。
また、頻繁な出張による慢性的ストレスは、高カロリー食への欲求をさらに増進させる。雇用主はこれを踏まえ、従業員に、最も健康的な選択肢を見極める方法を学んでもらう必要がある。そして、私が訪れたホテルのようにまともな食事がない場合の対策を、前もって知っておいてもらうべきなのだ。
また、出張中には運動計画を持続することも、往々にしてより困難だ。がんばった仕事への高カロリーのご褒美は、積もり積もれば体重増加と、それに関連する心血管疾患のリスクを招く可能性がある。したがって、エクササイズができるよう従業員をサポートすれば、体重増加の予防につながる。体を動かせばストレスも減るはずだ。
雇用主が実行できる、きわめて単純な方法として、まともなジムが備わった宿泊施設を奨励するとよい。また、貸し出し用のトレーニングウェアや、マット、ウェイト、トレーニング用ビデオなどの室内運動用具を提供するホテルを利用してもよい。
概して、ホテルのジムは必要最低限の装備しかなくて物足りないものだが、雇用主とビジネスホテル・チェーンが何らかの提携をすれば、ジムでの活動をより充実させるために協力できるだろう。ジム付きのホテルが選べない場合には、全国展開するジムやスポーツクラブ・チェーンの会員権を従業員に提供してもよい。
雇用主はまた、さまざまなストレス管理法と、よい睡眠をとるテクニックのトレーニングを、出張者に提供してはどうだろうか。コーピング(ストレスへの対処)を学ぶ手段として、認知行動療法、そして、マインドフルネスによるストレス低減法のトレーニングがある。ともに、抑うつ、不安、職場のストレスへの対処に効果的であることが示されている。このような技法は、頻繁に出張し、ストレスやネガティブな感情の影響をより被りやすいと思われる従業員に向けた、予防・治療プログラムに組み込んでもよいだろう。
電話会議やビデオチャットがますます洗練されても、出張は多くの職業において重要な要素であり、今後もそうである可能性が高い。キャリアの進展につながる道でもあり続け、企業は人材募集の際に出張機会を売りにすることも多いだろう。
だが、頻繁な出張と、慢性疾患の健康リスクとの関連を示すエビデンスは増え続けており、これらを出張の費用対効果分析で勘案する必要がある。出張は多くの人にとって必要であるだけでなく、間違いなく学びを得る機会にもなり、楽しいものでもある。しかし、頻繁な移動による消耗は、最終的にその価値を台無しにするかもしれない。
定期的に出張する人は、本当にそれほど頻繁に出掛ける必要があるのか、立ち止まって検討してみるべきではないだろうか。それでも出張が欠かせないという人は、どうすればストレスの影響を軽減でき、食事の選択肢に気をつけることができるかを検討しよう。そして、都市間を頻繁に飛び回る従業員を抱えているリーダーは、彼らが旅先で健康的なライフスタイルを維持できるように、教育、ツール、リソースを提供する義務がある。
HBR.org原文:Just How Bad Is Business Travel for Your Health? Here’s the Data., May 31, 2018.
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