「起業家は若い」という神話

 我々は、米国国勢調査局で機密管理されているデータセットを活用し、米国でこの数年間に起業した創業者全員の年齢を分析した。その結果、起業家の創業時の平均年齢は42歳であることがわかった。

 しかし、これらの新規事業者はたいてい小規模で、規模を拡大しようと思っていない(たとえば、クリーニング店や飲食店など)。そこで、典型的なハイテク系スタートアップに近い、起家業精神を持った会社に焦点を絞るべく、我々はさまざまな指標を利用した。特許を取得しているか、ベンチャーキャピタルで資金調達しているか、STEM(科学・技術・工学・数学)系労働者が多い産業で事業を展開しているか、などの指標だ。会社の所在地、特にシリコンバレーのようにベンチャー起業の盛んなエリアを拠点にしているかどうかにも注目した。

 こうしたきめ細かい分析でも、主要な結論は基本的に変わらなかった。ハイテク企業の創業者の平均年齢は、40代前半なのである。

 ただし、この平均年齢は、産業による大きなばらつきを反映していない。ソフトウエアのスタートアップでは、創業者の平均年齢は40歳で、もっと若い人も珍しくない。かたや、オイルやガス、バイオテクノロジーなどの産業では若い創業者はそれほど一般的ではなく、平均年齢は47歳近くになる。

 したがって、一般的に人々が持つ「若い創業者」のイメージは、ごく一部のB2CのIT産業(ソーシャルメディアなど)ばかりが大きく露出していることの反映と思われる。ITに劣らず重要な、重工業やB2B産業での起業はあまり注目されないのだ。

 では、最も成功しているスタートアップはどうだろう。より若い起業家が興した会社が、特に成功している可能性はあるのだろうか。

 創業から5年間の成長率で上位0.1%に入るスタートアップの場合、創業者の創業時の年齢は平均45歳だった。これらの「最も成長した」企業は、従業員数の増加に基づいて特定している。また、売上高の成長速度が最も速い企業で特定しても、年齢に関する結果は同じだった。新規株式公開(IPO)や事業売却でエグジットに成功したスタートアップも、創業者の年齢は同じように高かった。

 すなわち、最も成功している企業に関しては、創業者の平均年齢は下がるのではなく上がるのだ。全般的に、成功する起業家とは若者ではなく中年であるという傾向を、経験的証拠が示している。

 最も成長する企業の創業者の大半を中年が占めている一因として、彼らの起業志向がある。中年層は起業に何度もチャレンジするということだ。一方、実際に起業した人という条件で成功率を調べると、若い起業家の成功を否定する証拠がいっそう明らかになる。起業した人々の中では、年齢が高いほど成功率が著しく上昇するのである。

 我々が得た証拠によると、起業の実績は年を重ねるにつれて大きく向上し、50代後半で頂点に達する。年齢以外に何の情報もない起業家2人と向き合ったら、たいていの場合は年長の創業者に賭けたほうが賢明だろう。

 なぜこうなるのだろう。起業に際して年齢が強みとなりうる要因はさまざまにあるだろうが、我々の調査によると、実務経験が決定的な役割を果たすことがわかった。ふさわしい経験を持たない創業者に比べて、立ち上げるスタートアップと同じ業界で最低3年の経験を持つ創業者は、起業で大成功する可能性が85%も高くなるのだ。