ケーススタディ(1)
身の回りの環境を少しだけ変えて、職務内容の向上を図る

 ジョエル・ヘンドリーは、カリフォルニアを拠点とするソフトウェア会社ライフレイの北米担当エンジニアリング・ディレクターである。彼は、次のように個人的経験を語ってくれた。

 自分のキャリアに「大きな変化を起こすこと」は、キャリア中期の不安や不満を乗り越えるための方策には、必ずしもならない。「人によっては、キャリア自体を変えることが最もよい方法かもしれません。でも、私自身を含めほとんどの人にとっては、小さな、些細に見える変化でも、目的意識や満足感を大いに高めうるのです」

 数年前にジョエルは、やや倦怠感を覚えていた。この仕事に20年間従事してきたが、自分が望むような影響をもたらすことができていないと感じていた。仕事は繰り返しのように感じられ、今後も刺激的な課題はありそうにない。

「何度も同じことをやって、同じ会議をして、同じ問題に取り組んでいる、というような行き詰まりを感じていたのです。マンネリ化していて、働き方を向上させるこれといった機会も見出せずにいました」

 彼は、物事が変わるのをただ待つのではなく、何か手を打とうと決意した。「自分自身に責任を負わせる必要がありました」

 そこで彼は、仕事のあり方を工夫してみることにした。「私のキャリアを改善し、仕事への取り組み方を変革する方法について、同僚の1人がヒントをくれたのです」

 彼はまず、自分が何に情熱を感じるか、並外れて得意なことは何かを明らかにした。次に、その情熱とスキルを発揮できる新たな方法について考えた。

 ジョエルの場合、その関心と能力は主に、人と人をつなぎ、彼のチームと外部がうまく協働するよう促すことだった。「私は、チームで問題を解決するのが本当に好きなのです。私には5人子どもがいるので、家庭でも仕事でも、よいコミュニケーションと、互いのためになるような働き方のメリットがわかります」

 ジョエルはこのことを念頭に、みずからのマネジメントのスタイルを次第に変えていった。「自分がマネジャーとして何を達成できたかのみを重視するのは、もうやめました。自分の成功は、同僚が、素晴らしいコミュニケーション、サーバント・リーダーシップ、そして、チームの成功を重視しているかどうかで判断される――そう考えて自分の仕事に向き合うようになりました。そうすることで、プロセスよりも人間を大事にするようになりましたが、それが最も望ましい形でプロセスを改善することにもつながりました。人に最大限の力を発揮させることができるからです」

 結果は成功であった。「仕事のあり方の幅を広げてからは、以前よりもはるかに意欲を持って働いています。自分のキャリアとエンジニアチームのキャリアに、目的意識と充足感を与えることは、本当に効果がありました」

ケーススタディ2
従来のキャリアの外に人生の意義を探し、積極的にリスクを取る

 ジェームズ・パートリッジは、中年期におけるキャリア上の倦怠感を、キャリアの完全なやり直しにより克服した。経験を積んだ弁護士であるジェームズは、法曹界のさまざまな職務で20年以上働いてきた。初期には個人営業の弁護士、次いで銀行の行内弁護士となり、その後は大手コンサルティング会社の取締役となった。

「私は最終的に、法務とマネジメントに関する記事を書く会社に入りましたが、とてつもなく退屈し、まったく満たされていませんでした」と、彼は言う。

 ジェームズは、自分の仕事が何らかの影響を与えていると感じられなかった。「記事を書き終えると、それは資料室へと収まります。自分が誰かの役に立っているのか、その仕事に何らかの価値があるのか、わかりませんでした。まったく無意味に感じられたのです。ですが、そこに囚われたように感じ、他に何ができるかわかりませんでした」

 対応策として、ジェームズは趣味に没頭するようになった。アン・アーバー・ブルース・フェスティバルの復活を目指したのだ。同フェスティバルは約50年前に始まったが、2006年以降は開催されていなかった。

 音楽が大好きなジェームズは、2016年後半と2017年のほとんどを、フェスティバルのための計画や資金集めを手伝って過ごした。そして2017年の8月に開催。「私たちは大絶賛されました。自分がこれまでやってきたことの中で、いちばん満足できたことの1つでした」

 活力を得たジェームズは2018年、計画と運営に引き続き携わり、ついにはこの趣味に全力を注ぐようになった。「私は選択をする必要がありました。フェスティバルを自分のキャリアとするか、それともそれを捨てて、退屈な毎日に戻るか」

 金銭面が懸案事項であった。「大学の授業料に追われ、多くの人と同じように、住宅ローンも車の支払いもありました」

 それでもジェームズは、自分の幸運と人生の節目について思案し続けた。「妻は良い仕事に就いており、私たちはこれまで、金銭面と結婚生活全体に対して堅実でした。贅沢な生活はしてこなかったし、常にできる限りの貯蓄をしてきました」

 彼は自分の心の声に従うことに決め、これまでのキャリアを捨てた。そして、アン・アーバー・ブルース・フェスティバルのエグゼクティブ・プロデューサーとして、新たなキャリアを開始した。

 ジェームズは、新しい仕事が大変で給料もわずかだと、認めることをはばからない。「法曹界に戻ればもっと楽なのになあ、と思う日もあります」と、彼は言う。

 だが、自分の仕事は意義深いとも感じている。「いま私がしていることは、人を心から幸せにします。私が法廷で争っていた頃、そこにいた人の少なくとも半分は私を憎んでいました。いまは、フェスティバル会場を歩き回ると、人々が歌い、踊っています。出演者だって、好きなことをやってお金をもらっています。これほど満足できることはないでしょう」


HBR.ORG原文:How to Beat Mid-Career Malaise, August 02, 2018.

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レベッカ・ナイト(Rebecca Knight)
ボストンを拠点とするジャーナリストで、ウェズリアン大学講師。『ニューヨーク・タイムズ』紙や『USAトゥデイ』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙にも記事を寄稿している。