毎年、『Harvard Business Review』(HBR)に掲載された論文の中で最も優れた論文を、産学の有識者が選考し、マッキンゼー賞として表彰しています。2017年の第1位は、ハーバード・ビジネス・スクールのラファエラ・サドゥン准教授らの論文に贈られました。この論文を中心にして、最新号10月号は企業の競争力の源泉について、特集「競争戦略より大切なこと」を組みました。
ポーターの競争戦略論を
覆そうとする実証研究
ハーバード・ビジネス・スクールの准教授ラファエラ・サドゥン氏らが著した今号の特集第1論文「競争戦略より大切なこと」は、誰もが建設的に議論して、理論を磨いて行く、米国の文化を感じさせます。同校の教授であるマイケル・ポーター氏の代表論文「競争の本質」に疑問を呈しているのです。
業務効果に表れる経営管理能力は、「ポーターが論じているよりも重要であり、模倣されにくい」と主張します。論拠は、1万2000社以上を対象に調査した実証研究です。
戦略重視のポーター理論への批判は1990年代から、マギル大学教授のヘンリー・ミンツバーグ氏などが展開しています。その著『戦略サファリ』(東洋経済新報社)では、現場で臨機応変に戦略を転換し創造する日本企業の「創発」の成功事例などを反証とするものでしたが、今回のサドゥン論文は大規模なデータの分析に基づくものです。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)のウェブサイトでは、サドゥン氏らの調査に対して「Halo効果」の点から読者が疑問を投げかけていますが、それへの回答としてサドゥン氏らのディスカッションペーパーを掲載するサイトが提示されています。
一方、ポーター氏は、学長のニティン・ノーリア氏との最新の共著論文「CEOの時間管理」(前号DHBR9月号に掲載)では、その価値を説明するために、ミンツバーグ氏やサドゥン氏の過去の研究を引き合いにしています。両者はサンプル数が少なかったり、調査期間が短かったりで、体系的なデータが欠けている、と。ちょっと挑発している感じです。
欧米のビジネススクールで標準的な戦略教科書として使われているというロバート・グラント著『グラント現代戦略分析』(中央経済社)には、ポーター氏のもう1つの中核論文「5つの競争要因」(1979年発表)についての批判が紹介されています。
産業要因は企業間の収益性の差を主に説明するものではない、と指摘する1985〜2006年における6つの研究を示しています(「補完品」という6つ目の力など、その他の視点からの批判も掲載)。
とはいえ、同書においてもポーター氏の戦略論の扱いは厚く、いろいろな面で、議論のベースになっています。今号では、サドゥン氏らの論文が「戦略」に対しての、「業務効果」に表れる経営管理能力の重要性について論じているため、長文であるポーター論文「競争の本質」ではその点に焦点を当てて抄訳を掲載しました。
しかし、割愛した「活動の適合性が競争優位と持続性を強化する」という部分も重要です。「業務効果」は個々の活動や機能を実施する際の卓越性であるのに対して、「戦略」は様々な活動や機能の組み合わせであるとして、この組み合わせは強く絡み合うので、ライバルは「経営管理能力」よりも模倣が難しく、戦略を極める企業の競争力は持続する(競争優位が確立する)と言うのです。
『[新版]競争戦略論Ⅰ』(ダイヤモンド社)では全文掲載するとともに、前述の「5つの競争要因」の改訂版(2006年発表)も掲載しています。