筆者らは最近発表した論文で、この理論の検証を試みている。英国海兵隊の男性新兵218人を対象に、リーダーシップの成長を長期にわたって分析した。彼らは一連の心理適性テストと体力テストに合格した後、エリート養成プログラムに参加した兵士たちだ。

 より具体的に言うと、筆者らは次のことを検証した。「この人はリーダーシップを発揮している」と同僚から認められる新兵は、自分自身を天性のリーダーと見なす(統率するスキルと能力を持つ)傾向があるのか、あるいはフォロワーと見なす(自分の思い通りにやることよりも、任務の完遂に関心がある)傾向があるのか、である。

 これを目的に、さまざまな極限状況での戦闘に備えるための過酷な32週間の歩兵訓練の期間を通して、新兵にリーダーらしさとフォロワーらしさに関する自己評価をしてもらった。訓練の最後には、新兵と、訓練を監督した指揮官が、リーダーシップ能力を最も発揮した者に特殊部隊勲章を授けるための投票をした。

 はたして、誰が票を獲得するのか。リーダーだと自認した海兵隊員だろうか、それともフォロワー自認者だろうか。

 分析の結果は、前述した先行事例と一致していた。自分を天性のリーダーだと自認する新兵は、同僚にそう思われていなかった。最終的に同僚からリーダーと認識されたのは、自分がフォロワーだと考える(そして指揮官からもフォロワーだと見なされた)新兵だったのである。

 言い換えると、リーダーになりたければ、まずはフォロワーになろうと努めることが効果的なようだ。

 ただし興味深いことに、自分を天性のリーダーと考える新兵は、フォロワー自認者に比べて、指揮官からはリーダーシップの「潜在能力」が高いと思われていることも明らかになった。

 この結果が示唆するのは、リーダーシップの優劣の判断は、評価者の立場によるところが大きいということである。評価者がグループ内の一員であり、他メンバーの影響力を直接経験できる場合は、フォロワー自認者が有するリーダーシップを認識するようだ。対照的に、グループの外にいる評価者は、対象者の一般的な「リーダーらしさ」に最も敏感になると思われる。

 この後者のパターンは、リーダー選出における力学について多くのことを物語る。同時に、なぜ独立した選抜委員会で選ばれたリーダーが、実際に統率する集団の中に入ると、往々にして成果を出せないのかを説明する一助となる。

 このことはまた、リーダー志望者の状況を複雑にしてしまうおそれもある。なぜなら、リーダーの選出時に民主的なプロセスを避ける組織では、リーダー自認者(みずからをリーダーらしいと考え、昇進の決定権を持つ者にもリーダーらしいと思われている社員)のほうが、フォロワー自認者よりも、リーダーの地位に指名される可能性が高くなるかもしれないからだ。

 ところが、筆者らが調査した海兵隊のデータが示すように、グループから距離を置こうとするリーダー自認者の昇進は、実のところ成功ではなく失敗を招くことになりうるのだ。このようなリーダーは自分自身のイメージに陶酔し、みずからをフォロワーよりも上位で遠い存在にしてしまう。

 これぞまさに、フォロワーがリーダーを嫌いになる最たる状況だ。そうなればリーダーの統率力が損なわれるばかりか、フォロワーがついて行く気をなくすという深刻な事態になる。それでは、組織は凡庸になるばかりだろう。


HBR.ORG原文:Research: To Be a Good Leader, Start By Being a Good Follower, August 06, 2018.

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キム・ピーターズ(Kim Peters)
クイーンズランド大学の上級講師。組織心理学を担当。主な研究分野は、社会や組織での対人的影響のプロセス(コミュニケーションやリーダーシップなどを含む)。企業と緊密に連携し、組織機能における心理的要因の役割について検証している。

アレックス・ハスラム(Alex Haslam)
クイーンズランド大学の心理学教授でオーストラリア名誉フェロー。主な研究分野は社会、組織、臨床環境におけるグループとアイデンティティのプロセス。同テーマについて、世界各地の200人以上の共著者とともに、12冊の書籍を執筆・編集し、200本以上の査読論文を発表している。