威力があるから、ルール確立が急務。

 こうしたVRの威力の根源を、著者は、VR経験は、既存の「メディア経験」ではなく、「経験」そのものである、と指摘する。

 VR経験は、現実の経験と同じように、人の脳に働き、経験の前後で、人は変わってしまうのである。

 このことにいち早く気がついたゲーム開発者たちは、VRで一人称視点の暴力ゲームは作らないことを決めた。従来のテレビゲームで人気のある戦争やバトルゲームとは次元の違う影響を脳に与えてしまうからだ。VRでは、相手が仮想人間だとわかっていても、殺人の“経験”をすると、生々しい罪悪感を覚え、残存してしまうのだ。

 また、仮想世界で一日過ごすと、現実と非現実の違いがわからなくなるという実証研究も、発表されている。

 かつては一部の専門家にしか扱えなかったVRも、今では誰でも簡単に入手できるようになった。測り知れない力を秘めたこの技術は、人類にとって諸刃の剣であり、制作者は3つのルールを必ず守らなければならない、と著者は主張する。

 そのルールとは、(1)「それはVRである必要性があるのか」と自問しよう、(2)ユーザーを酔わせてはいけない、(3)安全を最優先する、である。

 この3つのルールの提言に至る著者たちの危ない経験を含め、本書の内容はすべて衝撃的である。そして、すでにVR装置は、クリスマス商戦の目玉商品になっているように、続々と一般家庭に入り込んでいる。この事実を多くの人が知り、ビジネスでも社会全体でも、早く対応しなければならない、という著者の主張には大いに納得させられる。