真似したいという気持ちで
広がるコミュニティ

 最後に、山崎氏はコミュニティを活性化するうえで、参加する人たちの「まねしたい」という気持ちを促すことの重要性についてこう語っている。

「たとえば、開発に役立つアプリで良いものがあると、どこかのコミュニティのGitHub(ソフトウエア開発のプラットフォーム)に情報が上がり、自分のコミュニティにも応用できる。イベントの開催情報やレポートをシェアすることで、同様の取り組みを自分の地域でも試みることができる。『良いことはまねしたくなる』という思いによって、コミュニティで起きたことが他の拠点にも展開されていくスピードは非常に速いです」

 アイデアや技術をシェアすることでコミュニティの規模はさらに拡大する。この利点を生かし、運営者が意図的に「シェアしたくなるようなもの」を投下したり、ピックアップしたりすることで、コミュニティに集まる人やナレッジを広げることも可能となるのだ。

 山崎氏へのインタビューによって、IT業界を中心として活用されている「開発者コミュニティ」の手法について整理してきた。冒頭で示した3つのポイントが実践されていることに加え、コミュニティを維持するためのさまざまな工夫が方法として確立しつつあることがよくわかる。

 重要なことは、このIT業界の「開発者コミュニティ」は互恵関係にあるビジネスパートナーであり、なおかつビジネスの「生態系」をつくる重要な機能でもあるということだ。「開発者コミュニティ」は、何も山崎氏の在籍したグーグル特有のものではなく、世界中のIT企業によって生み出され、運営が続いている。

 もっとも、ビジネスのために「コミュニティ」をつくってきたのはIT企業だけではない。野球チームや音楽アーティスト、映画業界などのビジネスコミュニティもある。ただ、これらのコミュニティの参加者は「お客さま」であり、コンシューマーだった。こうしたコミュニティも現在のマーケティングにおいては重要性を増してきているが、戦略コミュニティを考える上では、必ずしもその点はイコールにならない。

 次回以降、そうした点を考慮しながらより広範な分野における戦略コミュニティの活用について、話ができればと思う。