正負を問わず、あらゆる感情には、社会的な機能がある。
嫉妬は自尊心への脅威、すなわち自分が他者より劣っているという認識をもたらす。この脅威に対処し、嫉妬している相手とみずからの差を埋めるために、人は相手の優位を奪い取ろうとする(leveling down:他者の引き下げ)。または、自分を向上させようとすることもある(leveling up:自己の引き上げ)。どちらの方法を取るかを左右する一つの要因は、嫉妬の対象となる相手をどう捉えているかである。
リーダーシップに関する研究によると、自己を引き上げようとするリーダーは、社員の意欲喚起、スキル向上、障壁回避の支援を行う際に、彼らをインスパイアする(心を動かし奮起させる)という方法を採る。かたや社員を引き下げようとするリーダーは、部下を怒鳴りつける、非難する、仲間外れにするといった、ネガティブな手段で虐待的な管理をする可能性がある。
上司が部下への嫉妬を経験している場合も、同じことが言える。我々は中国企業2社(経営コンサルティング会社と天然ガス会社)の社員を対象に、上司と部下の関係について、2つの調査を実施した。
上司には数ヵ月にわたり、自尊心の基準値と、部下への嫉妬の経験を測るアンケートに答えてもらった。その後、彼らが部下の「思いやりの度合い」をどう認識しているかについて尋ねた。これにより、上司が部下の意図をどう解釈しているかを把握できる。さらに、部下の能力に対する認識も聞いた。こうすれば、部下がみずからの意図を実行する能力があると、上司が信じているかどうかを明らかにできる。
一方、部下には虐待的な管理に関するアンケートに答えてもらい、部下から見て、上司が自己改善をしているかに関するデータも収集した。
その結果、次のことが判明した。管理者であるリーダーが、「有能だが冷淡」だと感じる部下――つまり、仕事はできるが打ち解けない態度を取る部下――に対して嫉妬を覚えると、リーダーは自分と部下の差を埋めるために虐待的な管理をする傾向が強くなる。脅威を感じると、部下の立場を悪くすることで自分を守ろうとするのだ。
上司は権限のある地位にいるため、しばしば侮辱的な手段を行使できる。それが自分に悪影響を及ぼすおそれがあっても、である。多くの企業は、暴言やいじめをけっして許さない方針を取っているため、それを破れば自分の評判やキャリアを損ねることになる。
一方で、「思いやりがあって有能」だと感じる部下に対して上司が嫉妬する場合、上司は部下を引き下げるよりも、自分自身のパフォーマンスを向上し、みずからを高めることで部下との差を縮めようとする傾向が高くなる。