これらの結果は企業に、いくつかの実践的な示唆を与える。

 第1に、部下の職場での行動を改善する一助となる。すでに証明されているように、他者からの嫉妬を感じている人はしばしば、自分のよい部分を隠し、成功ぶりが大きく見えすぎないようにする。だが、我々の研究は、部下は自分の能力を隠すべきではないことを示唆している。それよりも、思いやりを持ち、協力的な姿勢を見せたほうが、はるかに自分を守る効果があり、結果的に人々がいっそう羨む立場に立てるかもしれないのだ。

 第2に、部下への嫉妬は虐待的な管理につながるおそれがある半面、そのような悪しき結果は不可避というわけではないことを、ビジネスリーダーは理解できるだろう。嫉妬は必ずしも「緑の目をした怪物」(嫉妬を表す慣用句)とは限らない。嫉妬が健全な競争を促し、パフォーマンスを向上させる可能性もあるのだ。

 つまり企業は、上司が部下への嫉妬を認識して、理解するように教育すべきである。感情の誘因をコントロールし、嫉妬を自己改善につなげることができるように、正式なリーダーシップ教育を行ったり、現場で嫉妬の対象となっている部下から学ばせたりするとよい。

 自分と他人を比べるのは、人間の自然な性質である。ほとんどの人が知っているように、自分がどれほど多くを達成していても、知人や職場の中には、自分より秀でている人がいるものだ。自分が重視し真剣に追求しているのに、彼らのほうが勝っている。

 しかしリーダーは、そうした嫉妬の原因を客観的に捉えれば、嫉妬心を生産的な結果に結び付けることができる。嫉妬するその相手は、信用ならないと思えるのか。それはなぜか。部下がなぜそういう行動をするのか、理解は可能か。部下の思いやりや冷淡さに関する上司の考え方は、どんな役割を果たすのか。

 リーダーは、嫉妬する相手に関する前提を見直せば、その自然な感情を「傷つく原因」から「自己改善のきっかけ」に変えることができる。ひいてはそれが、組織の成功にも寄与するのである。


HBR.ORG原文:Why Supervisors Envy Their Employees, September 13, 2018.

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リンタオ・ユー(Lingtao Yu)
ブリティッシュコロンビア大学ソウダービジネススクールの組織行動学および人材管理学助教授。ミネソタ大学で組織行動学および人材管理学の博士号を取得。研究テーマはリーダーシップと倫理、虐待的管理、感情、職場での逸脱行動、マインドフルネスなど。

ミシェル K. ダフィー(Michelle K. Duffy)
ミネソタ州立大学カールソン経営大学院、仕事と組織学部のバーノン・ヒース記念講座教授。アーカンソー大学で組織行動学および人材管理学の博士号を取得。主な研究テーマは、社員の感情と情緒が組織の成果に与える影響、職場での反社会的行動の前兆と影響、社員の心身の健康と組織生活を向上する小さな介入の役割。

ベネット J. テッパー(Bennett J. Tepper)
オハイオ州立大学フィッシャー・カレッジ・オブ・ビジネスのアブラモウィッツ記念講座教授。人材・経営管理学を担当し、同学部長も務める。マイアミ大学で組織心理学の博士号を取得。主な研究テーマは経営者のリーダーシップ、社員の心身の健康、職場での非生産的行動。