「信頼」がビジネスの成否を左右する
例えば、本書では信頼ビジネスの代表としてエアビーアンドビーを取り上げている。同社の成功はテクノロジーの観点からも説明できるだろうが、要となっているのが他人の家に泊まるという不安を克服させて、人々が信頼できる仕組みを構築したことにある。
同社のホームーページでは「ホームシェア」という概念を事細かに説明することに注力していない。新しいゲストがサイトを訪問すると、大抵はまず、自宅のある場所を検索するという。その検索結果のマップを見て、「近所のあの家が泊まれるのか、わかったぞ」とピンとくるという。自宅近所にも泊まれる場所があること、自分が既に知っている情報と結びつけることで、人は信頼を抱きやすくなる。親近感と「ピンときた」という感覚が生まれるように、サイトを設計しているという。
その上で、ホストとゲストが互いを信頼できるように、ホスト保証制度や認証ID制度などを導入し、プラットフォーム自体の信頼を高めている。さらに利用後には互いを評価できるシステムを整え、個人に対する信頼を数値化している。ビジネスの成功には、アイデア、プラットフォーム・企業、そして個人へと信頼を積み重ねる仕組みを整えること、信頼のマネジメントが欠かせないのだ。
本書を読み進めると、これからのビジネスを考える際に信頼という要素が欠かせないことを痛感する。それとともに、何でも信頼しろというのは無意味であるばかりか、危険でもあること、人々は既にむやみに信頼したがるほうに走りつつあることなど、信頼に関する新たな懸念についても問題を提起する。
ビジネスのみならず、フェイクニュースの問題、中国で進む市民のスコア化など、いま起きている変化はテクノロジーの進歩という視点で捉えられることが多い。しかしその変化を語る際には、実は信頼という視点も欠かせない。本書はいま世界で起きている変化を、全く別の視点から捉えられる刺激的な1冊である。