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新製品の正否を分けるもの
私の頭のなかには、いつも2つのリストがある。一つは、順風満帆に進んでいるプロジェクトのリストである。もう一つは、「何とかならないものか、もう少しうまくやれるのではないか」と思っているプロジェクトのリストである。
言うまでもなく、後者はけっして愉快なものではない。ほとんどのCEOがそうだと思うが、私も「結果こそすべて」と考えてきたからだ。もちろん、その仕事を完全無欠にまっとうできているわけではないが、市場競争は激しく、失敗のつけはきわめて大きい。いかなる時も、完璧を目指さなければならない。私はそのように教わってきたし、経験もそう教えている。
私は1994年、いまからおよそ1世紀前にメタル・オフィス・ファニチャー・カンパニーとして設立され、いまでは世界最大規模の家具メーカーであるスチールケースのCEOに就任したが、その直後、2つの新製品が発売された。私はこの時の経験から、業務執行の成否を分ける要因は何かについて、深く考えるようになった。
これら2つの新製品はいずれも画期的な新技術を利用したもので、斬新なビジョンに裏打ちされていた。市場に投入するタイミングもよかった。設計、売上目標、予算、スケジュール等、いずれも適切であり、成功の条件はすべて揃っているように見えた。
その製品の一つ、オフィス用椅子〈リープ〉はたちまち大ヒットとなった。長いR&Dプロセスの末に誕生した〈リープ〉には特許技術が用いられ、それは将来、自動車業界や航空業界にも応用できるものであった。私の母がこのことを聞いたら、きっと鼻高々であろう。
もう一つの製品、〈パスウェイズ〉はオフィスを仕切るシステム家具だが、初っ端からトラブルに見舞われた。2つの開発チームが製品コンセプトをめぐって対立していた。設計についても、投資額についても、ディーラーへの影響についても、さまざまな誤解が生じていた。
そのうえ、パネルの表面素材に問題があることがわかり、リコールに発展してしまった。製品コンセプトそのものはまさしくブレークスルーだったが、開発プロセスがまずかった。私の母もきっとがっかりすることだろう。
〈パスウェイズ〉の問題はすでに解決し、いまでは売れ行きも順調である。しかし、ものづくりにおけるスチールケースの組織能力を考えた時、大ヒットを飛ばすこともあれば、大きく外すこともあるという現実は、私を大いに悩ませた。
大学時代のフット・ボールの監督だったボー・シェムベクラーは、よくこんなことを言っていた。「人間は何をするにしても、これまでよりもよくなるか、悪くなるかのどちらかだ。一つところにとどまることはない」
会社を進歩させるには、CEOの私が先頭に立って、選んだ道を歩まなければならない。経営執行に関わる基本問題は組織のトップみずからが取り組まない限り、望みどおりの業績はけっして実現しない。
「考えるよりもまず行動する」の落とし穴
マネジメント業務を正しく執行するとはいかなることか。こう尋ねられて、ほとんどの人が「成果を出すこと」と答えるのではないか。取締役会がCEOに求めるのも成果を出すことである。そして、CEOが管理職に求めるものも、また管理職が部下たちに求めるものも同じだ。