デザイン思考などの新思考を
構想力の視点で論じる

 本書に登場するのは、歴史上の思想家だけではない。坂茂(随所に出てくる建築と建築家の総括も面白い)、イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズなど、時代を動かす実践家の言動を組み合わせて、「構想力」とは何か、それをいかに形成するか、を詳述している。思想の歴史に、今日の生活に大きな影響を与えている事例を入れ込んでいくので、その主張にリアリティをもって共感させられる。

 また、デザイン思考、システム思考、シナリオ思考、アジャイル、エコシステム、オープン・イノベーション、パーパス・エンジニアリング、ソーシャル・イノベーションとソサイエタル・イノベーション、リビングラボ、パタンランゲージなど、近年提唱されてきた新しい考え方について、歴史的な流れと構想力の視点から論じている。この点の記述にも、目から鱗が落ちる思いをしばしば味わえる。

 最後の第6章では、今日の日本において、構想力がいかに発揮できるか、について検討している。歴史を振り返れば、明治期からだけでも(もっと遡って世阿弥なども出てくるが)渋沢栄一や後藤新平に始まって、大原孫三郎、松下幸之助、井深大など日本には構想力を発揮して、時代を切り開いていった人が多くいる。この事実から、日本は元来、構想力が育まれやすい土壌や文化があるとする。にもかかわらず、それが現在生かされていないのは、その力の発露を抑える制度があるからだとして、その打破を主張する。本書で、構想力習得の方法論を説くのは、個人の奮起に期待するためだ。

「あとがき」では、17世紀から18世紀イタリアの哲学者、ジャンバッティスタ・ヴィーゴを紹介し、「デカルトに端を発するいわば徹底した論理思考により真理を演繹的にとらえようとする思考法に、敢然と反旗をひるがえしたので知られます。学問をガチガチの要素還元主義的、数学的な真理探究の世界から、もっと人間的な想像力や全体をまとめる綜合力の世界へと取り戻そうとした(ヴィーコ『新しい学問』)人でした」(本書からの引用)と解説する。

 そして、未来を拓くには、個々が自由人の気概を持って生きることが必要で、そのために創造やイノベーションのための構想力を身に付けることの意義を訴えるのである。