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差別化か低コスト事業か
見知らぬ相手と戦うよりも、勝手知ったる相手と戦うほうがまだましである。あらゆる業界で激しい競争が起こっており、資金や人材、時間を大量投入し、目の前のライバルと戦わなければならない。
とはいえ、自分たちと同じ目標、戦略、あるいは弱点と強みを持ち合わせた旧知のライバルとの戦いは、困難を極める一方、手の内もわかるため、ある意味気楽ともいえる。分身にも近いライバルと戦略や経営手腕を競い合いたければ、株価の動きを見ればよい。
実際、コカ・コーラはペプシコと、ソニーはフィリップスや松下電器産業と、エイビス・レンタカー・システムはハーツと、プロクター・アンド・ギャンブルはユニリーバと、キャタピラーはコマツと、アマゾン・ドットコムはイーベイと、まるでトウィードルダムとトウィードルディ[注1]のように戦っている。
しかし、よく知るライバルとの競争に没頭するあまり、破壊的な低コスト構造を持った新たな脅威をつい見過ごしてしまう。
現在、欧米をはじめ世界中で、業界リーダーとは異なるビジネスモデルや技術を携えた新手の敵が続々と現れている。これらニュー・カマーは、規制緩和やグローバル化、技術革新をテコに、既存企業に比べて破格の低価格で製品やサービスを提供する。
1990年代初頭、コストコ・ホールセールやデル、サウスウエスト航空、ウォルマート・ストアーズなど、低価格戦略の先行者たちは当時の業界リーダー数社のシェアを奪い去った。そして今日、欧米には低価格競争の第2波が押し寄せている。
たとえば、ドイツのディスカウント・ストア最大手であるアルディ・グループ、世界最大の眼科医療施設を備えるインドのアラビンド眼科病院、世界初の自動車保険の通信販売を手がけたイギリスのダイレクトライン、オンライン証券のイー・トレード、中国最大の通信機器メーカーである華為技術(ホアウェイ・テクノロジーズ)、大手家具メーカーであるスウェーデンのイケア、ヨーロッパ最大手の格安航空会社であるアイルランドのライアンエア、ジェネリック医薬品(特許切れによる後発医薬品)大手のイスラエルのテバ・ファーマシューティカル、アメリカの投資信託運用会社のバンガード・グループなどだ。
これら第2世代の低コスト企業が競争の性質を変えつつある。21世紀の競争は、20世紀の経営者が思い描いていたものとは大きく異なっている。このような状況において、業界リーダーはどのような手を打つべきなのだろうか。
戦略の研究は、言うまでもなく私が最初ではない。また最後でもないだろう。ハーバード・ビジネススクール教授のマイケル E. ポーターの「競争戦略」、同じくクレイトン M. クリステンセンの「破壊的イノベーション」、あるいはダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス教授のリチャード A. ダベニー[注2]の「超競争」など、多くの研究者が低コスト企業との競争戦略について述べている。
いかに多くの論文が著されても、新興勢力との競争戦略への関心は尽きない。にもかかわらず、その脅威が弱まる気配はない。なぜなら、ほとんどの企業が低コスト企業を既存のライバルと同一視し、さして気にかけないからである。