ウェストポイント陸軍士官学校
ウェストポイントにある米国陸軍士官学校は、1802年に創立された4年生大学である。士官候補生を陸軍将校へと育て上げることを使命とし、そのカリキュラムは困難をきわめる。求められる基準は高く、成績は詳細に監視される。
彼らが組織する「士官候補生団」は、陸軍と同様の階級で構成されている。まず4つの連隊があり、それぞれが3つの大隊に分かれ、各大隊が3つの中隊に分かれている。(全4学年の)各学年に全部で36の中隊があり、それぞれに約32人の士官候補生がいる。4学年の合計で約128人が1つのグループになる。
我々が研究対象としたのは、1981年~1984年卒業の学年だ。これは、女性が(1976年に)初めて入学を認められて以降の、卒業2期生~5期生である。
当時の士官候補生は、外の世界と接触する手立てがほとんどなかった。メールも、インターネットも、携帯電話もない時代だ。外部とのやり取りは、郵便か共用の公衆電話に頼っていた。そして士官候補生たちは、校内でも隔絶されていた。自分の所属中隊とともに生活し、食事を摂り、活動に参加しなければならない。他の連隊の士官候補生と交流する機会はさらに制限されていた。
卒業生の多くが、ウェストポイントでの過酷な1年目を思い出す。上級の士官候補生は、下級生への指導と違反への処罰を軍の作法で行うよう任されていた。1970年代後半から1980年代初頭には、それは往々にして厳しいしごきになっていた。
女性がウェストポイントに初めて入学した1976年には、その是非をめぐり大きな論争が生じた。士官候補生団によってかなりの違いはあったものの、女性はしばしば特別に厳しい扱いの的にされた。
各学年の平均人数は、男性1146人に対し、女性は103人。女性同士で交流する機会はほとんどなかった。当然のように、女性の離脱率は男性よりも平均で約5%ポイント高かった。男性の離脱率はわずか8.5%程度であったことをふまえると、これは大きな差異である。
ウェストポイントにおける女性と同輩集団
我々は、1976年~1984年のウェストポイントの年鑑からデータを集めた。ここには中隊と学年ごとに士官候補生の集合写真があり、研究ではこれらを同輩集団とした。この情報をもとに、各士官候補生について、ランダムに割り付けられた性別による同輩集団を特定し、年ごとの進級も追うことができた。
その結果、別の女性が中隊に加わると、女性が次の学年に進級する可能性が2.5%高まることが示された。つまり、中隊にいる女性の他に新たな女性が平均2人加わると、男女間の5%の進級格差が完全に消えることになる。
同輩集団の効果の大きさについて考えるもう1つの方法は、離脱率が最悪である1年目の士官候補生のみを考慮することである。1年目の女性で、グループに他の女性が1人しかいない場合は、翌年も残る可能性が55%であった。だが、他の女性が6~9人と最も多くいたグループの女性は、翌年も続ける可能性が83%であった。
しかし、1つ心配なのは、女性が増えることが他の女性の助けとなる一方で、それが男性の進級率を妨げるのではないかという点である。だが、男性と女性の結果を比較してみたところ、女性の同輩が男性に及ぼす影響はプラスもマイナスも認められなかった。言い換えれば、グループの中で女性の数が増えることには、プラス面しかなかったわけだ。
現在は1980年代のウェストポイントとどう違うのか
他の研究とは異なり、中隊における士官候補生の自然なランダム割り付けによって、女性の同輩がいることは女性に相当なメリットをもたらすという知見を得ることができた。だが、1980年代のウェストポイントは普通ではなかった。この結果は、もっと一般的に当てはまることなのだろうか。
その後40年間で、同校における状況は大きく変わった。1990年には、栄えある「ファースト・キャプテン」(士官候補生団全体のトップ)の地位に女性が任命された。2020年卒業組の新入生は、22%が女性であった。極端なしごきは排除され、外部の友人や家族、校内の他の士官候補生と交流する機会も増えた。体験の厳しさが和らぐにつれて、サポートの必要性も変わっているのかもしれない。
我々の研究結果が、2018年の大学や職場に当てはまるとは限らない理由は、他にも数多くある。女性が少数派である場合に直面する困難については、以前よりも認識が高まっており、リーダーたちの間でも、その困難を軽減しようという意志が強くなっている。企業の職場で同様の研究を実施したら、どのような結果が示されるか興味深いところだ。
そのときまでは、我々の結果を最良のエビデンスとしておきたい。女性をグループに割り当てる際に、性別の構成に注意を払うことは、男性優位の分野で女性の割合を増やすための強力な手段となりうるのだ。
HBR.ORG原文:A Study of West Point Shows How Women Help Each Other Advance, November 26, 2018.
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ニック・ハンティントン=クライン(Nick Huntington-Klein)
カリフォルニア州立大学フラトン校の経済学助教授。高等教育を研究対象としている。研究業績は、『ジャーナル・オブ・エコノミック・ビヘイビア・アンド・オーガニゼーション』誌、『エコノミック・インクワイアリー』誌、『リサーチ・イン・ハイヤー・エデュケーション』誌に掲載されている。
エレーナ・ローズ(Elaina Rose)
ワシントン大学の経済学准教授。労働経済学とジェンダーの経済学を専門とする。研究論文は、『レビュー・オブ・エコノミクス・アンド・スタティスティックス』誌、『デモグラフィー』誌、『エコノミック・ジャーナル』誌に掲載されている。