締切を守らない。会議をすっぽかす。メールを返信しない。悪気はないが計画的に仕事を進められない社員と一緒に働くことになると、単に予定通りに仕事が進まないだけでなく、ビジネス上の損害を被るケースもあり、ストレスの要因となる。ただし、この状況を改善してもらうのは容易ではない。当人がその必要性を感じていなかったり、すでに努力しているが成果が上がっていなかったりするなからだ。こうした部下を抱えたとき、上司はどう対処すればよいのだろうか。


 計画性のない社員を部下に持つと、苛立たちがはなはだしい。どうすれば、直属の部下に適切な仕組みを作らせることができるだろうか。どうすれば、会議やスケジュール、メールをきちんと管理することの重要性をわからせることができるだろうか。そもそも、性格的に整理のできない人に、それを克服する手助けをすることなど可能なのだろうか。

 ●専門家のアドバイス

 あなた自身が机を整理整頓し、優先順位の付いた「やることリスト」を持っているタイプでなかったとしても、あまりに計画性のない人を管理する側に立つと苛立ちを覚えるだろう。言うまでもなく、ストレスの原因にもなる。How to Invest Your Time Like Money(未訳)の著者エリザベス・グレース・サンダーズは、「部下がヘマをしでかしたかもしれない、締切に間に合わないかもしれない、などと考え始めると不安はどんどん膨らむ」と語る。

 そのような方法で仕事を進める人がいるということ自体、理解の範疇を超えているかもしれない。サンダーズは、「あなたがイライラして腹立たしく感じる最大の原因の1つは、人によってやり方が違うということだ」と述べる。

 これは難問かもしれないが、放っておくわけにもいかないことが多い。ハーバード・ビジネス・スクール教授で、『ハーバード流ボス養成講座』の共著者リンダ・ヒルによると、あなたが目指すべきは「『チームに必要なこと』と『できる限り生産的かつ効率よくなるために上司として必要なこと』を伝えること」だという。

 いくつかの方策を下記に挙げよう。

 ●問題の実態を把握しよう

 まず、社員に計画性がないことの「原因と結果を明確にしたい」とヒルは述べる。それがどんな形で表出しているかを考えることから始めよう。「書類があちこちに散乱しているのか。締切を破るのか。いつも会議に遅れてくるのか」。次に、その社員の行動が、どのように「チームのパフォーマンスを妨げているか」を考えるとよい。「その社員のやり方は悪い結果をもたらしているのか、それとも単にスタイルの違いなのか」を自問しよう。

 部下が「整理できなくても、それ以外について信頼が置けるなら譲歩すべきだ」とヒルは語る。サンダーズもこれに同意して、「交渉の余地がある問題と、その余地のない問題を把握すべきだ」と述べる。たとえば、その社員の机がいくら散らかっていようが(それがいくら気に障ろうが)、ほとんどの場合、たいした問題ではないだろう。

 ●親身になろう

 次に、「その行動を引き起こしている根本的な原因」を考えよう、とヒルは述べる。その社員は、これまで常にそういう振る舞いをしていたのか。あるいは、最近新しく始めた行動なのか。部下に寄り添い、理解しようと努めよう。「あなたは、その社員が生産性を高めるために悪戦苦闘していることに気づいていないかもしれない」。その部下が、ADHD(注意欠陥多動性障害)や計画的な行動が困難になる問題を何かしら抱えている可能性もある。

 思いやりを示せば、「批判や非難をせずに」社員と向き合うことができる、とサンダーズは補足する。少なくとも、誰もが整理整頓を得意とするわけではないことを認識しよう。「自分にとっては簡単でも、他人にとっては難しいことかもしれない」。少し謙虚になるだけで大きな効果が得られる。「自分も完璧ではない」ことを肝に銘じておこう。

 ●社員と話をしよう

 社員の性向がチームの生産性に害を及ぼしている場合には、きちんと話をすべきだとサンダーズは指摘する。社員自身に計画性のないことが「どんな影響を与え、どんな結果を招いているか」を把握できるよう導くといい。締切を守らなかったら、会社のプロジェクトは予算超過になってしまうかもしれない。あるいは、いずれ他のチームメンバーが「危機に陥るかもしれない」し、「顧客への印象が悪化する」かもしれない。

 そして、状況を改善する方法について話し合うといい。たとえば、部下がぎりぎりまで仕事を先延ばしする傾向があるなら、あなたは上司として早めに終わらせてほしいと告げよう。サンダーズは、次のような伝え方を勧めている。「締切が金曜日で、君の担当箇所が午後11時まで提出されなかったら、フィードバックができず不安になる。だから今後は、私が目を通して必要に応じて調整できるように、君の担当箇所を木曜日の朝までに送ってほしい」。上司として「お願いできること」があると覚えておこう。

 ●ベストプラクティスを共有しよう

 手本を示せば部下を助けることができる。あなた自身が使っている方法を説明し、どうすれば「物事の進捗を把握できるのか」を部下に説明するとよい、とサンダーズは述べる。この中には「プロジェクトのやることリストのつくり方や、あなたなりのファイリング方法、ラベリング方法、レビュー方法」などが含まれるだろう。「あなたが実践している簡単なことでも、他の人が思いつきもしなったことがあるかもしれない」とサンダーズは語る。

 ただし、1つ注意すべきことがある。「机上が散らかった人は視覚で認知する傾向が高いので、彼らにはエクセルファイルよりも紙のプランナーやホワイトボードを使ったほうがうまくいくことが多い」そうだ。

 チームの取り組みとしてベストプラクティスを共有することもできるが、やりすぎないように。「共有するのは好ましいことだが、それが指示になってはならない。脳の配線は人それぞれ異なるので、柔軟に取り組める余地が必要だ」

 ●キャリアへの助言を与える

 部下を叱責するよりも、計画性のない社員自身の利益に目を向けるようにすべきだとサンダーズは勧める。計画性を高めることは自分のためになると理解させれば、社員が変わりたいと考える可能性が高まる。「一般的に、計画性のない人々は残業をして埋め合わせすることになる」とサンダーズは語る。「その人に、残業で過労になってほしくないと伝えるとよい」

 計画性の欠如は、他者の心証に影響を及ぼすことも指摘すべきだ、とヒルは述べる。「他者がどう思っているか考えるように伝えるとよい」と。その社員が場当たり的に仕事を終わらせたとしても、同僚はその混乱ぶりを快く思わないかもしれない。ヒルは、散らかった机を比喩として使うことを薦める。「君の散らかった机を人々(同僚や顧客)が見たら、仕事を回せていないと誤解されるかもしれない。それは君のためにならない」などと伝えて、わかってもらおう。

 ●仕事を細分化しよう

 計画性のない社員の最も一般的な性質は、1つには各課題にふさわしい時間の割り当てができないことだ、とヒルは指摘する。「どこから取りかかればよいのかもわからず、優先順位が付けられないのだ」

 あなたの部下もそうなら、「仕事を細分化する方法を習得できるよう手助けをするとよい」とサンダーズは述べる。プロジェクトの初めに、部下と腰を下ろしてホワイトボードを使い、「プロジェクト管理の節目となるマイルストーン、目標、成果」を明示すべきだ。

 ●忍耐強くなろう

 最後に、この問題に即効薬は存在しないことを理解しよう。「この問題を改善した人を大勢見てきたが、それは困難で時間のかかることだ」とサンダーズは述べる。計画性のない社員が改善に努めているなら、冷たい態度を取ってはいけない。その代わりに、彼らの取り組みを認め、成果を称えよう。「時間通りに出席したり、締切を守ったりした時には評価すべきだ」とサンダーズは語る。

 ●覚えておくべき原則

【やるべきこと】
・社員の計画性に対する問題が、パフォーマンスに影響を与えているかどうかを判断する。
・計画性を改善すれば社員の仕事の利益になることを説明する。
・思いやりを持つ。あなたは、生産性を高めるために部下が苦労していることを、知らないかもしれない。

【やってはいけないこと】
・甘やかしてはいけない。計画性の欠如がチームに与える影響とその結果を、社員が理解できるように手助けしよう。
・計画的に行動するためのあなた自身の方法を独り占めしてはいけない。仕事を管理する方法を社員と共有しよう。
・焦ってはいけない。改善は時間がかかるので、社員の取り組みを認め、成果を称えよう。