●際立ったリーダーは引退したが、新たなリーダーが台頭
この10年近くにおいて、事業の主軸にサステナビリティを取り入れることに関しては、ユニリーバの元CEOポール・ポールマンほど成果を上げたビジネスリーダーはいない(私が同社の顧問を務めていたことも明らかにしておく)。世界、社会、環境に関する最も重大な課題への理解の深さと、それらに対処する手段としてビジネスを活用しようという本気の取り組みは、他に並ぶ者がいない。
そして、それは言葉の上だけではなかった。ユニリーバは、ポールマンの在職中も成長し続け、株価は同業他社およびロンドン株価指数(FTSE)を上回り続けた。幸いなことに、この分野で台頭している企業リーダーは他にもおり、ダノンのエマニュエル・ファベールもその1人である(詳細は後述)。
だが、大胆な取り組みが見られるのは、気候の分野だけではない。社会問題についても広範な取り組みがメディアの見出しを飾った。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、2018年は「CEOのアクティビズム(社会向上のための積極行動主義)が当たり前になった」年であると宣言。セールスフォースのマーク・ベニオフをはじめとする著名なリーダーたちが、その先頭に立っている。
他にも注目すべき動きがある。ナイキは「ジャスト・ドゥー・イット(Just Do It)」の30周年を記念したキャンペーンの顔として、コリン・キャパニックを起用した(結果、売上げが急増)。ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の選手たちの先頭に立ち、アフリカ系米国人に対する警官の暴力に抗議した選手だ。また、学校での銃乱射事件の生存者たちによる圧力が高まるなか、ディックス・スポーティング・グッズは自動小銃の販売を中止。強大な影響力を持つ、全米ライフル協会との関係を断つ企業も増えている。
スーパーマーケット大手のクローガーは、「エンド・ハンガー(飢餓撲滅)」イニシアチブの開始1周年を祝った。ユニリーバは、フェイスブックとグーグルに対し「フェイクニュースおよび有害コンテンツ」を取り締まらないなら、膨大な額の広告出稿を停止すると警告した。100人に及ぶ米CEOが、物議をかもす移民問題への対策を要求した。さらに、100社以上の米企業が、従業員が投票に行けるよう就業時間を短くするなどの取り組みを行った。
●北米ダノンが世界最大のBコーポレーションに
「Bコーポレーション」の認証(事業を通して社会や環境に最高水準の貢献をしている組織に与えられる。米非営利団体Bラボが運営)を取得するには、環境、社会、ガバナンスに関する一連の鋭い質問に答える必要がある。だが、何より重要な条件は、株主だけでなく、すべてのステークホルダー(顧客、従業員、地域住民など)にとっての価値を創造していることだ。
フランスの巨大消費財メーカーであるダノンは現在、グループ内の30%のブランドと事業でBコーポレーションの認証を取得している。同社によれば、「企業には、本当はだれの利益のために活動しているのか、という根本的な問いが突き付けられている」という。Bコーポレーションの認証を受けることで、その企業がだれの利益を一番重視するのか、そして株主資本主義のまん延に自社がいかに真っ向から挑戦しているのかを、直接示すことができるのは間違いない。
●ますます多くの投資家が、気候やサステナビリティを企業の中核的価値観と関連づけている
金融の分野でも、変化が起こっている。
投資運用会社バンガードは企業のCEOらに対し、世の中をよくする力になることを期待している。イングランド銀行のマーク・カーニー総裁によれば、「英銀行の70%は――往々にして視野が短期的ではあるが――気候変動をCSR(企業の社会的責任)の問題ではなく、金融リスクと見なしている」という。世界最大の資産運用会社、ブラックロックのCEOラリー・フィンクは、大企業のCEOたちに向けた書簡の中で、環境や社会、ガバナンスに関する問題を長期的視野で見るよう、強い言葉でアドバイスしている。
私が直接話をした大手銀行のリーダーたちの中にも、社会的意義とシステミックリスクについて考え方を改めた人たちがいる。マイアミのある大物不動産投資家は、海面上昇のリスクを避けるべく、沿岸部の不動産から資金をひそかに引き上げはじめた。この分野は要チェックだ。
●クリーン・テクノロジーの浸透が継続・加速する
私は今年、次の3つのクリーン・テクノロジー関連のニュースにも驚かされた。
1. 再生可能エネルギーは、価格低下が続いている
金融サービス会社ラザードが発表した、発電所新設費用に関する年次報告によると、再生可能エネルギーは現在、過去最低の価格となっている。別の世界的分析によると、風力および太陽光発電所の新設費用よりも、稼働費が高くついている既存の石炭火力発電所は、全体の約3割に及ぶ。そして2030年までには、既存発電所の96%の稼働費よりも安上がりになる。
2. クリーン・エネルギーを買う企業は、増加し続けている
2018年上半期だけで、企業のクリーン・エネルギーの購入量は2017年を上回る。オーウェンス・コーニング(私のクライアント企業でもある)のような企業は、自社製品がクリーンな製造工程から生まれている、と売り込めるだけのクリーン・エネルギーを購入している(2017年末以降)。
3. 電気自動車の売上げは急成長しており、それは小型車だけにとどまらない
コンテナ船まで電動化しつつある。輸送会社のUPSは、ガソリン車と同等の価格の配送用EVトラックを初めて導入した。中国では、5週間ごとに1万台の電気バス(ロンドンのバス全体に相当)が導入されている。
●中国が世界のゴミの受け入れを拒否
長年にわたり、米国は都合のよい取引をしてきた。貨物を積んだコンテナ船が中国から到着すると、再生利用可能な紙やガラスで満杯にして送り返すのだ。しかし、2018年1月1日をもって、中国はゴミの受け入れを中止した。
このことによる影響は予測がつかず、いまもゴミがどこかをさまよっている。だが一部の地域では、資源ゴミが山積みになり、リサイクル製品の価格が急落した。「循環利用」(どんなものについても再利用法を探し、ゴミを削減すること)に努めている産業界にとって、自分たちがいまだにどれほどゴミを生み出しているかを、改めて思い知らされる出来事だった。
●ストローの(少々奇妙な)問題がきっかけで、使い捨てプラスチック論争が激化
時として、奇妙な出来事が転換点になることもある。企業は今年、さまざまな理由が相まってストロー戦争を始めたが、その一因には鼻にストローが詰まったウミガメの動画があり、広く拡散された。ホテルチェーンのマリオット、マクドナルド、スターバックス、バーガーキング、シアトル市などが、ストローの禁止や段階的な廃止に踏み切っている。
この問題は、より広範な「使い捨てプラスチック」論争のごく一部にすぎない。最も顕著な議論はビニール袋に関するものであり、イケアや台湾は禁止に動いている。
●サプライヤーへの要求水準が高まる
サプライチェーンのクリーン化は毎年見られる話題だが、最近の活動には注目に値するものもある。アップルは、3億ドルで基金を創設し、中国のサプライヤーの太陽光発電化を後押しした。同社はさらに、アルミニウムメーカーのアルコアおよび資源会社のリオ・ティントと提携し、二酸化炭素を排出しないアルミニウム精錬法の開発に取り組んでいる。
サプライチェーンにおける労働者側の出来事としては、ペプシコとネスレが、人権を侵害しているとしてパーム油のサプライヤーとの提携を破棄。コカ・コーラは米国務省と協力して、ブロックチェーンを用いて強制労働問題に対処すると発表した。
●肉なしという選択肢が広がる
現在の肉牛の大半がどう育てられているかをふまえると、個人が二酸化炭素排出量を減らすために、自分でできる最も効果的なことの1つは、肉の消費量を減らすことだ。そのための選択肢は広がっており、非動物性のタンパク質でつくられた食品が著しく増えている。
インポッシブル・バーガーやビヨンド・ミートなどのブランドは、懐疑的だった消費者に「味がいい」と納得させた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、(人工肉が)「食品売り場の肉の陳列棚からあふれ出している」と報じている。
別の興味深い動きとして、ハイテク企業のウィーワークは、オフィス内で肉を提供するのをやめ、従業員が出張先で食べた肉料理は経費として認めないことを決めた。
●今後の展望は……
私が見落としている出来事も、たくさんあるだろう。特に世界の出来事は、米国から見ている私には追いきれていないはずだ。2019年は、予測は難しいが引き続き、浮き沈みの激しい年になると言ってよさそうだ。
今日の世界の政治情勢は、控えめに言っても不透明である。ブラジルは目下、アマゾンの熱帯雨林を破壊すると口にする、強権的な指導者に率いられている。片や米国の中間選挙では、下院で大統領選からの揺り戻しが起こり、気候変動や不平等やサステナビリティに関する議題に、もっと注目してもらいたい民主党が力を握った。
政治がどう転ぶにせよ、企業は引き続き、社会や環境の問題への取り組みを強化するよう内外から圧力を受けていくのは明らかだ。私たちが直面する問題はきわめて深刻であるとはいえ、2019年は企業がこれまで以上に行動するはずだという楽観的な思いもまだある。
HBR.ORG原文:The Story of Sustainability in 2018: “We Have About 12 Years Left” January 15, 2019.
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アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)
環境戦略のコンサルタント、著述家。世界各地の一流企業に、環境保護や社会貢献を実践して利益を生み出す方法を助言している。著書に最新作『ビッグ・ピボット』、ベストセラーとなった共著『グリーン・トゥ・ゴールド』、Green Recovery(未訳)がある。ツイッターは@AndrewWinsotn。