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未来が予測不可能になっていることは、あらゆる経営幹部が認識しているはずだ。しかし、企業の戦略が、決定論的な予測に基づく硬直的な計画になっていないだろうか。本稿では、柔軟性と適応性を、経営陣の思考の中心に据えることの重要性を説く。適応する意志、構造的柔軟性、ダイナミックな計画立案の3つが戦略策定の特徴となるよう徹底しなければ、多くの企業が予測できない変化の犠牲になってしまうと警告する。

バタフライ効果の犠牲にならないために

 上級幹部はしばしば、「うまく予測さえできていれば、さらによい計画が立てられた」と嘆く。市場はどう発展するのか、競合他社はどう対処してくるのか、消費者はどう反応するのかについて、より正確な見通しを立てるよう部下にプレッシャーをかける。勝てる戦略を策定する上でカギとなるのは、予測の精度だと考えているのだ。

 しかし、正確な予測を立てる試みは無駄である。気象学者エドワード・ローレンツはおよそ60年前、「バタフライ効果」を世に広めた時にそれを証明した。「アマゾンのジャングルで1匹の蝶が羽をはばたかせると、その後に欧州の半分が嵐に襲われる」と彼は言った。

 この言葉は「小さな事象が大きなインパクトをもたらしうる」という意味に解釈されることが多いが、ローレンツの洞察はさらに深遠だ。複雑系においては、ある変数の小さな変化は何の影響も及ぼさないこともあれば、甚大な影響を及ぼすこともある。そして結果的にどちらになるのかを予測するのは、事実上不可能ということだ。

 ローレンツの研究以前に予測を行った人々は、初期条件を近似的に規定すれば、未来の結果も近似的に予測できると仮定していた。ローレンツによるモデル化は、この仮定が完全に間違っていることを証明した。初期条件の「完全な定義」がなければ予測は役に立たないことを、彼は発見したのだ。

 今日、バタフライ効果はほぼ普遍的に存在する。私たちの世界はかつてなく複雑で相互につながっている。グローバル化の進展、通信技術の発展、消費者嗜好の変化、地政学的な不安定さ、そのほか無数の要因によって、未来はほぼ予測不能になっている。それらの関係性をすべてとらえた確実な予測など不可能だ。

 では、経営幹部はどうすればよいのか。ベイン・アンド・カンパニーはクライアントと協働する中で、極度の不確実性の下で経営を行う幹部らにこう助言している。適応する意志、構造的柔軟性、ダイナミックな計画立案の3つが戦略策定の特徴となるよう徹底することである。

適応する意志

「知性とは、変化に適応する能力である」はスティーブン・ホーキングの言葉として広く知られている。すぐ先の未来を予測できないのであれば、発生する事象に迅速に適応することが成功の秘訣だ。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、適応性がいかに重要かを証明するものとなった。2020年初期には、ほとんどの企業が戦略計画に世界規模のパンデミックによる事業への影響を見込んでいなかった。

 最も成功した企業(ズーム、アマゾン・ドットコム、料理宅配のグラブハブ、ウォルト・ディズニーなど)は、在宅勤務指示やその他の制約が就業者と消費者に及ぼす影響にいち早く適応した。需要の急増に対応して機能を拡大した企業もあれば、以前とは異なる新たな方法で顧客にサービスを提供するために、配送モデルを変更した企業もある。

 成功したとは言いがたい企業(ほとんどの民間航空会社やホテル経営会社など)は、適応できなかった──または、しなかった。そして売上げと利益が急激に落ち込んだ。新型コロナからの教訓があるとすれば、外部環境の急変に対処して迅速に方向転換する能力を持つことの重要性である。