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世界で20億人以上が小規模農家として生計を立て、そのうち40%の1日当たりの所得は2ドルにも満たない。所得を増やすには耕作地を広げざるをえず、それが深刻な環境破壊を招いている。世界中の人々に食料を供給するためには小規模農家の発展が不可欠だが、この悪循環をどうすれば断ち切れるのか。本稿では、ドイツのバイエルが主導した官民協働のパートナーシップ「ベター・ライフ・ファーミング」の成功事例をもとに、小規模農家が持続可能性と経済性を両立する方法を模索する。


 世界には約5億5000万の小規模農家が存在し、そこで生計を立てている人は20億人を超す。そのうちの40%は、1日当たりの所得が米ドル換算で2ドルにも満たない。

 こうした小規模農家は、多くの人が貧しくて栄養状態もよくないが、低・中所得国では人口の50%以上の食料を生産している。また、2050年には世界の人口が100億人に近づくと予測され、これだけの数の人に食料を供給するためには食糧生産を現在の1.5倍に増やさなくてはならない。そのための方策は、小規模農家を抜きにしては語れない。

 現在、小規模農家は、自分たち自身と地球環境の両方にダメージを与える悪循環にはまり込んでいる。小規模農家は異常気象と水不足に弱く、農産物の買い手との接点が乏しく、交渉力も小さい。栽培中と収穫後の保管中に、収穫物の推定28%が売り物にならなくなっている。このような農家は、乏しい所得を増やすために、森林を伐採して耕作地を広げざるをえない。

 しかし、この森林伐採により、地球が大気中の二酸化炭素を吸収する能力が弱まる。しかも、伐採された木が腐敗したり、燃やされたりすると、二酸化炭素が排出される。加えて、開墾された土地で畜産や農業が行われることで、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出がさらに増える。

 科学者の推計によると、世界の二酸化炭素排出量の10~15%がこのような森林伐採によるものだという。したがって国際社会と世界の企業にとっては、小規模農家が生産性を向上させて貧困を抜け出せるようにし、破壊的な農業のあり方に終止符を打てるように支援をすることが重要な意味を持つ。

 企業は小規模農家が新しい農業手法とビジネス慣習を採用するのを助けることで、この悪循環を断ち切ることができる。そのためには多くの小規模農家が参加でき、利益を上げるのを助けられるような戦略を打ち出すことが求められる。

 世界的なライフサイエンス企業のバイエルは、世界銀行グループの一翼を担う国際金融公社(IFC)、灌漑ソリューションをグローバルに提供するネタフィム、そして国レベルの20以上のパートナーと協働し、複数のステークホルダーが参加する形で「ベター・ライフ・ファーミング」(BLF)というアライアンスを立ち上げた。

 このアライアンスでは、小規模農家に流通のラストワンマイルを埋めるためのソリューションを届けることで、持続可能性と採算性を備えた農産物供給者に変貌させることを目指している。

ローカルにマネジメントする
ローカルなエコシステム

 BLFは、官民のパートナーで構成されるローカルなエコシステムを築いて、小規模農家に包括的でアクセスしやすいサービスを提供している。その中には、教育と研修、融資と保険、種子や肥料、作物保護剤、灌漑システム、農機具などが含まれる。

 このエコシステムは、小規模農家が地元の仲介業者や流通業者、購入企業といった顧客、IFCや開発金融機関、NGO、地元の農業団体など、キャパシティビルディング(能力構築)のパートナーとつながる機会も用意している。

 BLFのエコシステムで新しい要素は、地域ごとに設けられるBLFセンターだ。このセンターは、地元の最大500の小規模農家(互いに結びつくことがなく、孤立している場合が多い)を支援し、大企業やNGOのサービスやプロダクトを利用できるようにしている。それぞれのセンターは、BLFとの合意の下、アグリビジネス起業家によって所有・運営される。

 そのようなアグリビジネス起業家は、地元の農家、あるいは学校を卒業した若者のケースが多く、まずBLFアカデミーで近代的農業とビジネスについて研修を受ける。そのうえで、アグリビジネス起業家がBLFのアグリコンサルタントの支援を受けて、モデルとなる農場をつくり、そこで地元の農家の研修を行う。有効で効率的で持続可能な農業経済学的手法と灌漑手法を学ばせるのだ。

 このような教育と研修を実施することで、小規模農家が環境への負荷を抑えつつ、農作物の品質を向上させ、収穫高を増やせるようになる。

 BLFセンターを運営するアグリビジネス起業家は、地元のBLFのパートナーと協働し、農家の金融リテラシーを向上させ、金融・保険サービス、効率的な灌漑施設、種子、肥料、作物保護剤、顧客(地元の仲介業者、流通業者、市場、企業のサプライチェーン)とのつながりを提供している。

 一言で言えば、BLFセンターは、小規模農家のための教育、研修、金融、調達、そして流通の新しいエコシステムの拠点になっている。このセンターは、女性の小規模農家を支援したり、アグリビジネスコンサルタントとアグリビジネス起業家として女性が活躍する機会を増やしたりするよう努めることで、これまで生かされてこなかった可能性を開花させることを特に重んじている。