地球環境に人や企業の生産活動が与える負荷は深刻化しており、残された時間はごくわずかである。私たちの地球に、いま、何が起きているのか。そして、先進的な企業はどのように対応しているのか。環境戦略のコンサルタントであり、ベストセラー『グリーン・トゥ・ゴールド』の著書であるアンドリュー・ウィンストンが、サステナビリティに関する最前線の問題を提起する。
私は毎年、サステナビリティに関する、その年の重要な話題を探索している。世界的に大きな潮流となりそうな顕著な徴候から、企業の活動に関する触発的なストーリーまで、社会に持続的な影響を及ぼしていくと思われる出来事だ。
2018年は激変の年であり、気候や環境生態系、政治動向と権力、ビジネス界への期待に大きな変化が生じた。そして、私たちの課題と機会がどれほどのものであるかも、くっきりと浮き彫りになった。
では、企業の成功事例を紹介する前に、まずは全体像から見ていこう。
●世界の科学者らが気候変動に最終警報を鳴らす
私たちに残された時間はあと約12年――。
これが、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」による記念碑的な研究が示した明確なメッセージだ(早ければ2030年には、世界の気温が産業革命前より1.5度上昇すると試算された)。気候変動の最も破壊的な影響を一部でも回避するには、世界は2030年までに炭素排出量を45%削減し、2050年までに化石燃料への依存から完全に脱却しなければならない(にもかかわらず、依然として排出量は増えている)。
IPCCが注目したのは、気温上昇を摂氏2度(華氏3.8度)のみに抑えた場合(コペンハーゲンとパリで開催された世界気候サミットでの合意目標)と、1.5度の上昇に抑えた場合の違いだ。後者でさえも、「かつてない規模の」大きな努力が不可欠になるという。いずれにしても、私たちが直面している問題は深刻であり、0.5度上昇するごとに人間、地球、経済は甚大な損失を被る。
厳しい見通しを示しているのはIPCCだけではない。13の米国政府機関の協働による全米気候評価報告書は、気候変動によって、GDPは最低でも10%後退する恐れがあると結論づけている。
他の研究でも、海面上昇は人々の予想を超えて深刻な事態を招く見込みであること、南極の氷は10年前に比べ3倍の速さで溶け出していること、グリーンランドでもやはり急速に氷床が失われつつあることが示されている。もしどちらの氷床も消えてしまったら、海水面は約60メートル以上上昇し、壊滅的な被害が生じる可能性がある。たとえば、大西洋岸一帯(ボストン、ニューヨーク、ワシントンDCを含む)、フロリダ全域、ロンドン、ストックホルム、デンマーク、ウルグアイとパラグアイ、そして現在10億人以上のアジア人が暮らす土地が、消失するかもしれない。
こうした研究結果はいずれも、ビジネスのあり方を抜本的に変える必要があることを意味している。企業は、事態を政治や政策に任せて安穏としている状況から抜け出し、環境への投資判断を下す際に消費者を関与させる必要がある。
●異常気象で町が丸ごと地図から消える
2018年は世界各地で甚大な――同僚の言葉を借りれば「聖書に描かれているような」――気象災害が発生した。
カリフォルニア州のパラダイスという町は、山林火災で事実上消失し(そう、気候変動の影響でより深刻化したのだ)、少なくとも85人が死亡した。フロリダ州メキシコビーチでは、ハリケーン・マイケルによって、ほとんどの家屋が破壊された。ノースカロライナ州は、ハリケーン・フローレンスの未曾有の大雨で被害を受け、一時的に幹線道路が川と化した。
台風22号(マンクット)は、フィリピンと中国の一部に破壊的被害をもたらし、数十人の死者を出した。夏には信じられないほどの熱波が4つの大陸を覆い、欧州とアジアは記録的猛暑となった。ベネズエラでは、最後の氷河が消滅しかけている。最後に、南アフリカのケープタウンは、干ばつのせいもあって水が枯渇寸前になっている。市は2018年に水道を全面停止しかけたものの、継続的な給水制限と市民の積極的な活動によって、これまでのところ「デイ・ゼロ(完全な断水)」は回避している。
こうした激甚災害は、机上の話ではない。水が枯渇した地域や洪水に見舞われた地域、あるいは焼き尽くされた地域の経済コストがどの程度か考えてほしい。米国内だけで、2017年のコストは3060億ドルに上り、過去の記録を更新している。
●サンゴは死滅の危機に瀕し、虫は姿を消し、主要生態系の見通しは暗い
サンゴ研究の世界的な第一人者は、気温が2度上昇すればサンゴは死滅すると明言している。そうなると、何億人もの人々にタンパク質を供給し、沿岸部で高潮の威力を和らげ、漁業や観光業で生計を立てる人々を支えている海洋生態系の重要な一部が崩壊する。
そして、問題はサンゴだけではない。太平洋岸の藻場(海藻の群落)が消滅し、昆虫の個体数が激減し、あらゆる哺乳類とハナバチの個体数が減り続けている。
こうした問題は、ビジネスとどう関連するのだろうか。
一部の業界は如実な影響を受ける。農業・食品業界は、受粉を媒介するハチがいなくなると満足に食品を供給できなくなる。観光業界は、サンゴをはじめとする野生の生物がいなくなると大打撃を受ける。
だが、もっと広い視野で見ると、地球を支える柱がすべて崩壊した環境では、社会は繁栄できない。そして社会が繁栄できなければ、ビジネスも立ちゆかない。
●米国政府みずから、国の環境保全システムを解体し続けている
米国環境保護庁(EPA)と内務省は、長年にわたる大気、水、土壌の保全活動と逆行する政策を取り始めた。2018年、トランプ政権は沖合水域での石油・ガスの掘削を認め、掘削に関する保全規則を撤廃し、政策実施において科学者らの声を抑え込み、子どもの健康を軽視し、環境を汚染する石炭工場建設の規制を緩和した。
目下の大きな問いは、米企業がこうした政府の動きに対抗して、環境保全への道を自力で進むかどうかである。
多国籍企業は、そうする可能性が高いと容易に考えられる。地域レベルの自治体からの圧力に直面しているからだ。たとえば、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事はグローバル気候行動サミットを開催し、州や市から多くの積極的な気候目標が提案された。さらに、2045年までに州の電力をすべて無炭素発電によってまかない、すべての新築住宅に太陽光発電装置の設置を義務付けるという野心的な新法案に署名した。
このように、たとえ連邦政府の環境保全システムが機能不全に陥っても、地域のビジネス環境に影響を及ぼせる知事や市長によって、クリーン・エコノミー(環境に優しい経済)と気候に配慮した政策が推進されるだろう。
米国とは際立って対照的に、EUはパリ協定を採択していない国(つまり、米国のみ)と新たな貿易協定は結ばないという提案を打ち出した。フランスは2021年までに、すべての石炭火力発電所を閉鎖すると発表し、インドは大規模な石炭火力発電所の建設計画を取りやめ、中国は燃費の悪い車500種の販売を禁じた。