
2020年のジョージ・フロイド死亡事件、2021年の米国連邦議会議事堂占拠事件など、米国では社会を揺るがす重大な問題が後を絶たない。これには多くの企業が声を上げたが、ベン&ジェリーズは最も強力な声明を発表した企業の一つだ。同社はなぜ、さまざまな社会問題に対する自社の見解を発信するのか。ベン&ジェリーズCEOのマシュー・マッカーシーらに話を聞いた。
2020年、黒人男性ジョージ・フロイドが警察官に拘束されて死亡した事件と、それに続くブラック・ライブズ・マター(BLM)運動を受けて、どの企業よりも強力な声明を発表したのは、ユニリーバの子会社である米国バーモント州のアイスクリームメーカー、ベン&ジェリーズだったと言ってもよいかもしれない。その声明文の表題は、「私たちは白人至上主義を解体しなくてはならない」だった。
2021年1月6日に米国連邦議会議事堂占拠事件が起きると、ベン&ジェリーズは翌7日にさっそく、ソーシャルメディアに強力なメッセージを投稿し、この事件を「クーデター未遂」と厳しく糾弾して、ドナルド・トランプ大統領(当時)の弾劾を強く主張した。
それ以降、ほかの企業も相次いで、(ソーシャルメディア企業の場合は)トランプのソーシャルメディア・アカウントの停止、政治献金に関する企業方針の変更、そして一部の企業の場合は、トランプおよびトランプのビジネスとの取引を拒絶する姿勢を明らかにした。
ベン&ジェリーズはどのようにして、政治的論争の的になるような最新の出来事に対しメッセージを発する時期と方法を決めているのか。同社はなぜ、非常に多くの問題について立場を鮮明にしているのか。同様の行動を取りたいと考える企業へのアドバイスは、どのようなものか。
本誌はビデオ会議システムを利用して、ベン&ジェリーズCEOのマシュー・マッカーシーと、グローバル社会運動戦略責任者を務めるクリストファー・ミラーに話を聞いた。以下は、その内容を編集したものである。
HBR(以下太字):ベン&ジェリーズは、どの問題についてメッセージを発信するかを、どのように決めているのですか。
ミラー:私たちは、自社の価値観に根差した社会運動と意見表明を継続しています。我々の会社には、NGOや政策分野の経験があって社会的使命感を強く抱いているメンバーに加えて、世界でも指折りのマーケティングチームがいます。
そのマーケティングチームのおかげで、ファンとの絆を育んで、メッセージを広める方法がわかっています。そのため、何らかの出来事があった時に、コミュニケーションができるのです。
たいてい、最初のきっかけをつくるのは社会運動に取り組む中核的なメンバーですが、マシュー(・マッカーシーCEO)や取締役会のメンバーが口火を切る場合もあります。実際には、社内のさまざまな層から同時に声が上がるケースがほとんどです。
特にジョージ・フロイドの死や、先週の出来事(トランプ支持派による連邦議事堂占拠事件)は、誰もがそれを目の当たりにしていて、メッセージを発しなくてはならないと、みんながはっきり認識していました。
つまり、これまで長く社会問題に取り組んできて、「我が社ではこのような問題を重要と考えています」と発信してきた結果、新しい問題が持ち上がった時にも誰もがすぐに行動を起こしやすくなるということですか。
マッカーシー:何らかの問題に長年取り組んできた経験がなくても、新しい出来事に対して、私たちの価値観に基づいて新しい視点を提供できると思えば、メッセージを発信する方法を見出せるはずだ、と考えています。
けれども、たしかに、すでにほかの問題に関して意見表明した経験があれば、メッセージを届けるスピードが高まります。その意味で、私たちは短い時間で多くの賛同者に主張を理解してもらうことができます。
過去の行動の積み重ねによる信頼も重要です。ものを言うのは、ソーシャルメディアにどれだけ投稿したか、啓蒙用の有益な動画をつくったかといったことだけではありません。実際に行動を起こすこと、それが大切なのです。
その点、クリス(・ミラー)のチームが長年掛けてNGOとのパートナーシップを育んできたおかげで、どのような行動を取るべきかを知ることができます。刑事司法改革にせよ、安全な投票の権利確保にせよ、NGOの人々は現場を知っていて、問題を肌で知っています。そして、私たちが協力を求めれば、力になってくれます。私たちが自社のビジネスを活用して、問題を解決しようとしていると知っているからです。
ミラー:私たちのチームは、仲間や同志、パートナーの大きな輪を築いています。社会問題に対して反応する時は必ず、こうした人たち助言を求めます。
BLM運動に関する声明では、4つの極めて具体的な政策提案を行いました。それらの提案は、本社の会議室の中でつくり上げたものではありません。現場に身を置き、有効な解決策を知っている人たちの声を拡散しようとしたのです。
マッカーシー:意図も重要です。私たちがこのような活動をするのは、もっとたくさんアイスクリームを売りたいからではなく、人々を大切に思っていて、尊重したい価値観を持っているからです。
企業とはすべて、価値観を持った大勢の人間の集合体です。その点は、どのような企業にも言えることです。
ところが、クリスがよく指摘するように、企業が自社の価値観を表明する手段として一般的に用いられる方法は、政治へのロビー活動です。そのために用いられるお金は、表面に出ません。けれども、今日の世界で徹底した透明性が求められるようになり、自社の価値観を公に発信しなければビジネスとブランドの存立が危ぶまれる時代が訪れつつあると、私は感じています。