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ESG(環境、社会、ガバナンス)の重要性がますます高まる中、企業、投資家、株主は、ESG活動とその影響を数値計測するための手法を確立することに積極的だ。客観的な指標があれば、意思決定を下しやすくなるだろう。しかし、現時点で数値化できる範囲はあまりに狭く、あくまで一部分に焦点を当てたにすぎない。また、社会システムと環境システムの複雑さを数値化すること自体に限界があり、指標に囚われると本来の目的を見失う危険性がある。本稿では、ESG活動の計測が生む誤解を明らかにし、真に有効な対策を講じるための3つの方法を紹介する。


 現在、世界全体でプロフェッショナルが運用を担っている金融資産の3分の1、金額にして約30兆ドル相当がESG(環境、社会、ガバナンス)の基準を満たす投資対象で運用されている。これは、目を見張らされる金額と言ってよい。

 この金額は、2016年に比べて30%以上増加している。しかも、ESG関連のエクイティファンドに流れ込んだ資金は、2020年の4月から6月の間だけで700億ドルを突破した。この金額は、ここ数年の年間の金額を上回る。

 これらのデータは、企業、投資家、株主の間で、新しい認識が広がりつつあることを浮き彫りにしている。その新しい認識とは、企業が生き延びるためには、それまでの姿勢を転換して、その企業が地球に及ぼす影響を検討し、それをマネジメントする必要がある、というものだ。

 たとえば、持続可能性を尊重すべきだという考え方が強まっている。その一環として、企業のESG活動とその影響を数値計測する優れた手法を確立すべきだというコンセンサスも急速に形づくられつつある。強力な評価制度によりその数値を広く知らしめるようにすれば、企業はおのずと自社の行動を改善したいと思うはずだと期待されている。

 しかし、現状のESG関連の指標が計測している物事の範囲はあまりに狭い。社会システムと環境システムは複雑に入り組んでいて、一部分だけを切り出して論じることはできない。その点では、企業という組織そのものも同様だ。既存の数値計測手法は、そうした側面をとらえられていないのだ。

 本稿では、数値計測の必要性を認めつつも、そのようなデータの使用と解釈に当たっては注意が必要であることを指摘したい。加えて、私たちの地球と社会を脅かす問題に対して有効な対策を講じるうえで、企業はどのように行動すればよいかという指針も示す。