ビジネス・ラウンドテーブルは、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体である。彼らが2019年8月19日に発表した声明は、ビジネス界に大きなインパクトを与えた。企業経営の原則とされていた「株主資本主義」を批判し、「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言したからである。企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパス(Purpose) の実現も目指すべきだという姿勢を表明したことは、注目に値する。
ビジネス・ラウンドテーブル(BR)が、「企業の目的に関する声明」と題された公開書簡を発表したのは8月19日のことだ。
BRはアップルからウォルマートまで、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体である。企業トップ181人の署名が入った声明は、次のように締めくくられていた。「どのステークホルダーも不可欠の存在である。私たちは会社、コミュニティー、国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する」
それ自体は、BR会員企業の年次報告書にあふれる、無味乾燥なコメントと大して変わらない。だが、このトピックを追ってきた人々にとって、この声明は、長年企業の意思決定の指針となってきた、ミルトン・フリードマン的世界観に対する公然たる批判であることがわかる。
シカゴ大学の経済学教授だったフリードマンが、有名な『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿で、「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」と断言したのは1970年のこと。それは以後、半世紀にわたる「株主資本主義」の発端の一つとなった。この世界観によれば、商売で肝心なのは商売(the business of business is business)であり、CEOはその商売で利益を最大化することにのみ意識を集中すべきだ。
BRの声明は、この世界観にきっぱり反論している。いわく、企業が説明責任を負う相手は、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティ、株主の5者であり、株主はその一つにすぎない。
その意味で、これは現代の欧州、そして第二次世界大戦直後の米国で幅広く支持された「ステークホルダー資本主義」の宣言である。したがって、その内容自体は目新しいものではないが、時価総額ベースで米国の全企業の30%近くを占める大手企業の経営者が同意していることは注目に値する。
ステークホルダー資本主義に対する最大の批判は、株主利益以外のことをパーパスに据えようとすると、焦点がぼやけて、最終的に汚職が起きるというものだ。これは、CEOは社会的価値を自分の都合のいいように解釈して、チャンスさえあれば「パーパス」を装って会社の資源を流用し、私服を肥やすという考え方に由来する。
この考え方に今年異論を唱えたのが、資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOだ。フィンクは毎年恒例の取引先CEOに宛てた手紙で、「(企業の)パーパスは、利益の追求だけでなく、利益を達成するための活力になる」と述べている。「利益はけっしてパーパスと矛盾しない。むしろ利益とパーパスは、切っても切れないほど緊密に結びついている」