社会問題に関する発信は、総合的に見てビジネスの業績にどのような影響を及ぼしていますか。
マッカーシー:力強い成長を成し遂げています。しかも、データによれば、ファンは社会的使命(ソーシャルミッション)に関わる私たちの活動を認識して、それが理由になって、いっそう私たちのビジネスを支持するようになり、しかも支持の気持ちをますます公言するようになっているようです。
アイスクリームの購入量が増えた人たちもいます。そのような人たちは、必要に迫られて買っているわけではなく、自発的に購入しているのです。私たちが消費者ではなく、ファンという言葉を使う理由は、この点にあります。
社会問題に関係したアイスクリームのメニューも販売していますね。BLM運動に連帯する「ピーカン・レジスト」(Pecan Resist)や、人種間の不正義に抗議したNFL(米プロフットボール)プレーヤーのコリン・キャパニックを応援する「チェンジ・ザ・ワールド」(Change the Whirled)などです。こうした社会運動関連の商品開発のアイデアは、どのようにして生まれるのですか。
マッカーシー:私たちが販売する商品ではすべて、価値観重視の原材料調達を実践していますが、そうした社会的意義を前面に押し出した商品は、ビジネスの力で変革を推進するモデルの最も純粋な形態と言えるかもしれません。それは、問題にまじめに取り組みながらも、難しい問題に遊び心を持ち込む手立てにもなります。
私たちは毎年、たくさんのアイスクリームをつくっており、イノベーションのファネルだけでなく、社会問題に関する意見表明のパートナーシップのファネルも持っています。
政治献金に関する方針はありますか。
マッカーシー:意外に感じるかもしれませんが、ベン&ジェリーズは特定の政党を支持していません。激しい分断の中で戦われた2020年の米大統領選でも、「バイデンに一票を」といったソーシャルメディアの投稿やプレスリリースは発出していません。(共同創業者の)ベンは個人として、バーニー・サンダース候補を支持して「バーニーズ・ヤーニング」(Bernie's Yearning)と名づけたフレーバーのアイスクリームをつくりましたが、それは会社としての行動ではありません。
私たちの社会運動は、不正義の根本原因を解消することを目指しています。そうすると、たいていの場合、システム全体に関わる問題と向き合うことになります。私たちは政治的ではあるかもしれませんが、特定の候補者を支持しているわけではありません。
どうして、ベン&ジェリーズはとてもたくさんの社会問題に力を注ぐのでしょうか。遺伝子組み換え作物の使用についてのラベル表示とか、環境保護とか、自社のビジネスに明らかに関係がありそうなテーマに絞り込んでもよさそうに思えます。さまざまなことに手を広すぎて、それぞれのテーマへの取り組みが手薄になるリスクはありませんか。
ミラー:私たちの統合マーケティングチームを率いるジェイ・カーリーが好んで口にする言葉があります。自分が毎日同じシャツを着た写真をインスタグラムにアップし続ければ、みんなすぐにフォローをはずしてしまうだろう、という言葉です。
人々は、いろいろなことに関心を持つものです。それに、ベン&ジェリーズは単一のテーマにだけ取り組んでいるのではなく、さまざまな進歩的価値観を土台に行動する社会運動志向の企業として知られています。
企業の中には、自社のサプライチェーンに直接関わりのあるテーマしか語る資格がないと思い込んでいる会社があまりに多いように思います。でも、企業はあらゆる問題についてメッセージを発信してもよいと、私は思っています。避けたいのは、自社の顧客が持っていそうな価値観を取り繕うことです。みずからが深く信じていることに基づいて行動することが大切です。
刑事司法における保釈金制度を廃止すべきだとか、大統領が退任すべきだといった主張に関しては、異論を持った人もいるでしょう。それでも、私たちがアイスクリームを売ることを目的に、こうした主張を行っていると批判できる人はまずいないでしょう。
2020年と2021年のはじめに起きた出来事により、企業の社会的責任を果たすだけでなく、社会問題の解決に乗り出す企業が増えていくと思いますか。
ミラー:Z世代とミレニアル世代の消費者は、企業が社会問題に関する態度を鮮明にし、自社の行動を通じてグローバルなコミュニティに貢献することをますます重んじるようになっています。
「社会正義を目指す企業」がもっと増えてほしいと思っています。いつまでもパタゴニアとラッシュとベン&ジェリーズだけという状況では、誰にとっても好ましい結果にはなりません。必要なのは、見栄えのよい行動を取るだけでなく、実際によい企業であることです。
マッカーシー:「ベン&ジェリーズの場合は、共同創業者のジェリーとベンの存在があるからほかの会社とは違いますよ! 価値観を土台に設立されていない会社には、なかなか真似できません」と言う人も少なくありません。
でも、正しいことを始めようとする時に、タイミングの心配をする必要はありません。それに、率直に言って、みなさんの力が必要です。ほかの会社に任せておけばよいと思わないでください。マーケティング会社に丸投げにするのもやめましょう。
自社のブランドに最適なテーマを探そうとする必要はありません。どのテーマに取り組めばよいかわからない場合は、スタッフと話し合い、みんなを集めて価値観に関する議論を行う場を設ければよいのです。
取り組むテーマは、動物愛護でもよいし、食料配布活動への協力でもいい。テーマは何だってよいのです。駄目なのは、何もしないことです。