Cactus Creative Studio/Stocksy

2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックを抜きにしては語れないが、それ以外の重大な問題が消滅したわけではない。経済的不平等はますます拡大し、気候変動による打撃もかつてなく大きかった。「ブラック・ライヴズ・マター」運動が世界中で展開された、歴史的な1年でもある。こうした社会の変化は、企業が果たすべき役割にも大きな変化をもたらした。本稿では、その中でも注目すべき10の現象を紹介する。


 2020年は途方もなく過酷な1年だったが、最後の最後に明るい材料も見えてきた。

 100年に1度とも言われる感染症の世界的大流行により、人々の生活と経済に甚大なダメージが及んだ。これは、計り知れない規模の悲劇と言うほかない。

 それでも、科学の威力を実感させられるニュースもあった。ファイザーやモデルナなどの製薬会社がきわめて有効と思われる新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発に成功したのだ。希望を奪われた1年の中で、ようやく一筋の希望の光が差したと言えるだろう。

 しかし、2020年に最も関心を集めたテーマは新型コロナウイルス感染症だったが、社会が直面している大きな問題はそれだけではない。コロナ禍の陰で、ほかの深刻な問題の数々が消えてなくなったわけではない。むしろ残念なことに、問題はさらに大きくなっている。

 社会の経済的不平等は、2020年にますます拡大した。超高所得者層への富の集中が続く中で(この層に移転した富は、米国だけでもこの数十年で約50兆ドルに上る)、その状況にいっそう拍車が掛かっているのだ。コロナ禍の中で、米国の大富豪たちは富を1兆ドル近く増やした。

 また、2020年は気候変動の打撃もかつてなく激しかった。暴風雨がますます激しくなり、深刻な熱波が襲来し、オーストラリアと米国のカリフォルニア州では空前の規模の森林火災が発生した。そして2020年は、歴史上最も暑い1年だったということになりそうだ。

 コロナ禍による経済危機に対応するために、世界の国々の政府は、いわば財政の蛇口を全開にした。人々の暮らしとビジネスを支えるために、景気刺激策として注入された資金は約20兆ドル。これは、世界のGDP(国内総生産)のおよそ4分の1に相当する金額である。

 感染症危機以外の問題もますます深刻化する中で、莫大な政府資金が投入される状況を受けて、単にコロナ禍以前の社会を再建するのではなく、この機会を活かして「よりよい再建」(build back better)を目指すべきだと訴える声も高まっている。より環境へのダメージが少なく、より公正で、より持続可能な社会を築こう、というわけだ。これは、2020年米大統領選の選挙運動でジョー・バイデンが採用したスローガンでもあった。

 そして、米国で黒人に対する警察の暴力をめぐって起こった抗議活動は、人種間の不正義に関する世界的な議論に火をつけた。

 このように、普通の年とは比べ物にならないくらい多くのことが起きた1年だった。当然、それに伴い、ビジネスの世界も逆戻りできない変化を経験した。そのすべてを列挙することはできないが、本稿では、筆者が注目した10の現象を紹介したい。