持続可能性に関する活動を実施する企業は、どんどん増えている。あらゆる企業がそれに取り組んでいるために、単なる必須事項にすぎないのか。それとも、競争優位を実現する十分条件になるのだろうか。筆者らの調査により、持続可能性への取り組みが差別化戦略になりうる事実が示される。
近年、世界中でますます多くの企業が、持続可能性(サステナビリティ)に関する広範な活動を自主的に取り入れて実施している。そして取り組みの急速な普及によって、持続可能性の性質と、それが組織に与える長期的な影響についての議論も巻き起こっている。
持続可能性の取り組みは、業績向上につながる差別化戦略の1つになるのだろうか。それとも、企業が生き残るための戦略的必須事項ではあるが、必ずしも優れた業績を保証するものではないのだろうか。
一方の主張によれば、持続可能性は「一般的な(ありふれた)活動」として浸透していて、生き残りに欠かせない条件であるものの、競争優位性を構築する十分条件にはなりえないとされる。
たとえば、環境、水、ごみなどの管理システムを導入してコスト効率化に生かすことで、収益性を高める企業がある。こうしたシステムは概して持続可能性の活動の実践と見なされ、ESGレーティング(環境、社会、ガバナンスに配慮しているという評価)にも含まれる。
とはいえ、それらを取り入れるだけで競争優位性を確立できると考える企業は、たとえ存在するとしても少数といえるだろう。通常、競合他社は、こうしたシステムを第三者から直接、容易に入手できるからだ。
マイケル・ポーターとマーク・クラマーはこのような見地から、ハーバード・ビジネス・レビューの論文「共通価値の戦略」で次のように明示している。持続可能性は慈善活動と同様に、企業活動の中心ではなく「周辺」に位置づけられるものであり、経済的成功を達成するための活動ではない。しかし、一般的活動として導入することで(つまり、他社と「同じ」ようにすることで)、その企業は「正当」だと見なしてもらえるというメリットがある。
もう一方の主張では、持続可能性は競争優位性を生み出す戦略となりうるため、平均以上の業績をもたらすことになる(「善行によって業績を上げる」活動)とされる。たとえば、循環経済に基づいた画期的なビジネスモデルを持つ企業や、従業員の採用、エンゲージメント、定着率を向上させる慣行を導入する企業は、それによって自社の差別化を図っている。そうした独創的で模倣されにくい戦略を構築すれば、競合がいない、または少ない位置を占めることができるという。
両者の議論は、ポーターが1996年に発表した影響力のある論文「戦略の本質」と概念的に関わりがある。彼はこの論文で、オペレーション効率と戦略を明確に区別した。戦略とは「差別化」であり、「戦略の真髄とは、他社が対抗できないような活動システムに基づく独自性と価値のあるポジションを選ぶこと」であるという。
はたして持続可能性は、差別化戦略になるのだろうか。あるいは、模倣されて広まることが避けられず、競争優位性の基盤となる可能性は限られているのだろうか。
近年、持続可能性の取り組みに関する企業の動きは、どのくらい似通ったものになっているのだろうか。いくつかの業界ではより早く類似化が進んだのは、なぜだろうか。そして、これが重要な点だが、業界レベルで起きている持続可能性の活動の全体的な類似化は、企業の業績にどんな影響を及ぼすのだろうか。