米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体ビジネス・ラウンドテーブルは、2019年8月、「企業の目的に関する声明」を発表した。米国トップ企業のCEOたちが株主至上主義との決別を宣言したことは、世界中で大きな注目を浴びている。ただ、ハーバード・ビジネス・スクール教授のリン S. ペイン氏は、この宣言を高く評価するのは時期尚早であるという。本稿では、その4つの理由を示す。
米国財界団体のビジネス・ラウンドテーブル(BR)が8月、「企業の目的に関する声明」を発表した。これは、インクルーシブ(包摂的)な繁栄を理想に掲げるとともに、株主利益の最大化を企業の唯一の目的とすることを拒絶しているという点で、注目に値する。
内容的には、すでに多くの団体や専門家が言ってきたことだが、1997年にBRが宣言した株主至上主義から180度の方向転換であり、勇気が必要だっただろう。アメリカのリーディングカンパニー約200社のCEOから同意を得るのも、容易ではなかったはずだ。
ただ、この声明は多くの意味で、企業の長期的な成功のためには、株主だけでなく複数の構成要員を重視する必要があるとした、BR自身による1981年の声明に似ている。また、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のアレックス・ゴースキー会長兼CEOが、BRの起草委員会の委員長を務めていること考えると、今回の声明が、J&Jの有名な「我が信条(クレド)」をほうふつとさせるのは、驚きではないのかもしれない。
しかし、今回の声明がどのくらいの重要性を持つかは、これが各企業でどう実践されていくかにかかっている。現時点では、米国企業のあり方を変える行動要請というよりは、あくまで象徴的なポーズと見るべき理由が、少なくとも4つある。