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温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」に向けて、国際社会が本格的な取り組みを始める中、企業リーダーは迅速な行動を起こすべく対応を迫られている。戦略プランの策定、規制機関への報告義務、リスクと財務に対する影響を示す指標など準備すべきものは多いが、具体的に何をすべきなのか。本稿では、気候変動がもたらす影響を事業ポートフォリオ全体に関わる問題としてとらえ、それに伴うコストとリスクを評価したうえで、意思決定者が課題解決から機会創出に向かうための戦略立案と実行について論じる。


 地球温暖化の問題が本格的に議論されるようになってから10年以上が経過し、世界各国の政府、主要な多国籍企業、大手の機関投資家は、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」に向けて、本格的な取り組みを始めている。

 CEOやCFO、取締役、戦略立案者をはじめとする企業リーダーは、この状況に対応しなければならない。排出削減に向けた戦略プランの策定、規制機関への報告義務、そして自社が直面するリスクと財務に対する影響を描き出す指標を用意する必要がある。

 しかし、具体的に何をすればよいのか。どのような指標が必要になるのか。

 迅速に行動を起こさなくてはならないという点で、疑問の余地はない。消費者、同業他社、バリューチェーンを構成するパートナー企業、そして投資家の圧力により、ネットゼロの気運は高まっている。

 2021年5月、アクティビスト(物言う株主)がエクソンモービルの取締役の座に就き、同社がネットゼロの実現を加速させるよううながした。エクイノールシェルは、2050年までにネットゼロを達成する計画を発表している。英国の中央銀行のイングランド銀行は最近、金融機関や企業に対して、未来の気候変動により自社がさらされるリスクを評価するよう強くうながした

 2021年秋には、英国グラスゴーで国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。この会議では、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前の1.5度増までに抑えるという目標に向けて、世界が足並みを揃えることが合意された。この水準を超えると、破滅的な気候上の惨事が起こると考えられている。

 二酸化炭素排出量をコントロールすること、そして気候変動がもたらすコストとリスクを正確に把握することは容易でない。気候変動の影響、およびそのコストとリスクは、事業ポートフォリオ全体に関わる問題だ。したがって、企業が気候変動対策を立案する場合は、事業ポートフォリオ全体を対象にしなくてはならない。