●バリューチェーン全体の排出量を把握する

 最初のステップは、自社のポートフォリオを構成する各事業のバリューチェーンについて、排出量を把握することだ。そのためには組織だけでなく、サプライヤーとの関係も視野に入れなくてはならない。

 航空機やジェットエンジンのような単一の製品やサブシステムの場合、組み立ての最終工程に到達するまでに、いくつもの部品、下請け業者、製造工程、輸送プロセスが関わる。それぞれの段階で温室効果ガスが排出され、コストが生じるため、それらすべての要素を含めなければならない。コストとリスクを正確にモデル化する必要があるだろう。

 自社の事業ポートフォリオを診断するには、カーボンプライシング(炭素価格制度)のさまざまなシナリオごとに、各事業の収益とキャッシュフローがどのくらい影響されやすいかを評価することから始める。それをやることで、環境規制の強化により、自社の事業ポートフォリオがどのようなリスクにさらされるかが見えてくる。

 ●バリュー・アット・カーボンリスクを主要指標にする

 事業ポートフォリオを診断する基本的な方法は、ある主要指標に従って評価することだ。すなわち、「バリュー・アット・カーボンリスク」(VaCR)だ。

 VaCRは、いわゆる「カーボンVaR」(カーボン・バリュー・アット・リスク)とは異なり、既存の設備投資、ビジネスモデル、オペレーションに基づき算出される。具体的には、VaCRはバリューチェーン全体の二酸化炭素排出量、排出規制およびカーボンプライシングのシナリオごとに受ける影響(確率加重の変化)を考慮に入れた場合、ポートフォリオ価値がどのように変動するかを示す指標である。

 VaCRを用いると各事業のパフォーマンスを評価・比較できるだけではない。排出規制が強化されたり、炭素価格が上昇したりした時に、自社の特定のオペレーション、事業プロセス、そして(あるいは)サプライチェーンデザインが成立しなくなる可能性が示されることもある。そのような場合は、当該事業を売却するか、排出量を削減するために投資するかという決断を迫られる。

 規制のあり方が絶えず変化し、テクノロジーをめぐる状況も急速に変貌を遂げ、さまざまなステークホルダーからの圧力が強まる中、事業ポートフォリオの戦略的マネジメントは極めて動的にならざるをえない。すなわち、評価と再評価を繰り返す必要があるということだ。