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気候変動や貧困、教育など、世界には重大な問題が山積している。官民のグローバルなパートナーシップによって解決を目指すのは一般的だが、筆者は、それが課題解決に貢献することはめったにないと指摘する。そうではなく、企業それぞれが、自社のビジネスに大きな影響をもたらす地域を対象に、より具体的な支援に取り組むことが有効である。それは単なる社会貢献にとどまらず、自社の成長や利益に直結すると筆者は言う。


 今年も世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が開催され、企業の社会的良心が大々的に示された。気候変動や貧困、慢性疾患、識字教育、海洋プラスチック問題など、世界が直面する緊急課題に対処するために、さまざまな官民パートナーシップ(PPP)に莫大な資金を投じることが約束されたのだ。

 それらが善意と誠意から生まれたものであることは間違いない。だが、残念なことに、そのほとんどはひっそりと失敗に終わるだろう。

 グローバル企業は社会進歩の領域でも指導的役割を果たすことができる、というアイデア自体は間違っていない。問題は、株主に価値をもたらしつつ、現実に社会的インパクトを生み出すにはどうすればいいか、である。

 たしかに高度なグローバル・パートナーシップは、リソースをまとめ、知識を生み出し、目の前の緊急かつ重要な課題に集中するという意味では効果的だ。だが残念なことに、こうしたパートナーシップが「課題を解決する」ことは、めったにない。それどころか、参加しているパートナーが、社会にとって意義深い進捗がないことや、自社にとって経済的利益がないことに落胆して、いつのまにか内部崩壊するのがオチだ。

 このような運命に陥らないようにする唯一の方法は、参加企業が、自社のビジネスに最も密接につながった地域で、具体的な問題にターゲットを絞ったパートナーシップを、いつ、どこで、どのように構築するか、という明確な戦略を持つことだ。つまりグローバルな問題に取り組むには、ローカルな解決策が不可欠なのだ。

 まず、グローバルな課題に対処することは、企業の利益になることを認識する必要がある。国連の持続可能な開発目標(SDG)は、推定12兆ドルのビジネスチャンスを生み出していると言われている。

 グローバルな課題を無視すれば、利益を失う可能性もある。社会の破綻は、企業の成長や利益を抑えるだろう。公的な教育システムが破綻すれば、社員教育のコストや従業員退職率が上昇するだろうし、小自作農が貧困に陥れば農産品の供給が不安定化する。気候変動がもたらす自然災害は、すでに企業活動に大きなコストを頻繁に発生させてきた。

 社会のニーズに対処することは、もはや企業の評判を高めたり、事業免許を維持したりするためではなく、未来のビジネスと競争優位の中核をなす課題となった。社会のために価値を生み出す企業は、株主のためにも価値を生み出す。このウィンウィン関係は、「共有価値の創造」と呼ばれる。

「グローバルな課題にはビジネスチャンスがある」という認識は高まっていても、まともな対処策を見つけた企業はほとんどない。これは、企業幹部が知っている、サプライヤーや流通業者や関連企業からなる会社のエコシステムの管理方法では、政府とNGOと地方自治体からなる社会のエコシステムは管理できないからだ。

 企業として利益を上げると同時に、社会にインパクトを与えることに成功した企業の十数例を研究した結果、コラボレーションはローカルレベルで起きなければならないことを、私たちは発見した。

 システム的な変革を起こすためには、企業、政府、市民社会の関係アクター全員が協力しなければならない。そのためには、本誌で紹介したあるアプローチを取る必要がある。その手法を取ることは、単にグローバル・パートナーシップに参加するよりもはるかに大変で、華々しい要素は少ないが、目に見える社会的・経済的結果を生み出せるだろう。