(4)気候変動対策や持続可能性重視の動きは、それでも勢いを増した

 2020年1月、マイクロソフトは世界で最も野心的な気候関連の目標を打ち出した。2030年までにカーボン・ニュートラルを達成し、2050年までに1975年の創業以来の総排出量を相殺すると約束したのだ。自社の過去も含めたカーボン・ニュートラルを目指すと約束した企業は、それまでに例がなかった。

 一方、グーグルは9月、マイクロソフトを上回る本格的な対策を明らかにした。カーボン・オフセットを購入して、ただちに過去の排出量をすべて相殺したのだ。加えて同社は、2030年までに自社の施設をすべて再生可能エネルギーで動かすようにすることを約束した。

 アップルは、2030年までに自社のサプライチェーン全体でのカーボン・ニュートラルを実現する計画を発表し、スターバックスは、消費者とサプライチェーンの行動を変えるための詳細な行動リストを作成した。アマゾンは、2040年までにカーボン・ニュートラルを達成するものとし、地元シアトルのスポーツ競技場キー・アリーナの命名権を取得して、「気候の誓いアリーナ」に改名した。

 2020年には、土地利用と生物多様性の面でも、これまでより大きな目標が掲げられるようになった。ユニリーバは、土地再生と炭素隔離のために10億ユーロの予算を確保することを決めた。ウォルマートは、5000万エーカーの土地と100万平方マイルの海洋を守り、「再生企業」になることを目指すと表明した。巨大アパレル企業のケリングは、生物多様性の面で全体としてプラスの影響を生み出すことを約束し、自社のサプライチェーンで用いている土地の6倍の土地を再生する方針を明らかにした。

 環境だけではない。社会的な側面での取り組みを進めている企業もある。マスターカードは、10億人の人々、5000万社の小規模ビジネス、2500万人の女性をデジタル・エコノミーに統合する計画を打ち出している。

(5)化石燃料の存在感は引き続き低下した

 2020年に世界で増加した電力生産量のうち、90%近くは再生可能エネルギーによるものだった。太陽光発電のコストは、1kWh(キロワット時)当たり1.5セントまで下落した。2025年までには、石炭に代わってクリーンエネルギーが最大の電力源になる見通しだ

「石油業界は崩壊に向かっている」と、『ニューヨーク・タイムズ』紙は2020年4月に指摘した。巨大石油・天然ガス企業の株価は、大幅に下落している。筆者の計算によれば、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、BPといった企業の株式時価総額は、最も高かった時に比べて3分の1程度まで落ち込んでいる。

 天然ガスと石炭から洋上風力発電に転換したデンマークのオーステッドは、本稿執筆時点で株式時価総額がBPを上回っている。売上高は4分の1にすぎないのに、である。

 脱化石燃料の動きに関してほかに目立った動きとしては、以下のようなものを挙げることができる。116年の歴史を持つフォルクスワーゲンの工場は、内燃エンジン車の生産を終了し、電気自動車の生産拠点として再出発した。ユニリーバは、自社の洗剤製品に関して、化石燃料由来の成分に代わる新しい原材料を開発するために10億ユーロを投資すると発表した。

 グーグルは、石油・天然ガス企業による油田開発と採掘を支援するアルゴリズムの提供を打ち切ると発表した。保険会社のサンコープは、2025年までに、石油・天然ガス企業への融資と損害保険引き受けを停止するという。

(6)投資家はESG重視への転換をさらに推進した

 ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視すべきだという声は年々高まってきたが、2020年はその潮流が一挙に加速した年だったと言えそうだ。前出のサンコープのように、脱化石燃料を推し進めて、ESGを意識した投資の比重を増やす金融機関が増えている。

 2020年1月、世界最大の資産運用会社であるブラックロックが、投資家と企業に宛てた恒例の年頭書簡を発表した。同社のラリー・フィンクCEOはこの年頭書簡の中で、気候変動とそれがシステム全体にもたらすリスクにより、金融のあり方が大きく変わるとの見解を示した。

 投資信託運用会社ティー・ロウ・プライスは、同社が企業の経営陣とやり取りする際に最大のテーマがESGに関する情報開示(ディスクロージャー)だと述べている。金融大手モルガン・スタンレーの調査によると、ESGを投資プロセスに取り込んでいる機関投資家は80%。この割合は、2017年には70%だった。

 モルガン・スタンレーは、ニューヨーク州年金基金マッコーリー・アセット・マネジメントなどの大口投資家とともに、2040年もしくは2050年までに、運用ポートフォリオの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを約束した。

 たしかに、これではあまりに遅すぎる。投資により、長期にわたり稼働する発電施設がつくられてしまうからだ。とはいえ、これが変革への第一歩になることは間違いない。

 世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、投資先の企業に対して、気候変動に関する方針や排出削減目標など、ESG関連の情報開示を強化するよう求める方針を明らかにした。有力慈善団体のロックフェラー兄弟財団は、化石燃料関連の投資から撤退することで、マーケットの平均を上回る運用成績をあげることができたと明らかにした。