(10)資本主義のリセットを求める声が高まった

 コロナ禍をきっかけに、「よりよい再建」を目指す一貫として、これまでの資本主義について回る問題を解消するための抜本的変革を求める論者が、続々と登場した。

 ハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソンと、大富豪のヘッジファンド経営者レイ・ダリオは、その代表格だ。外部性のコストを支払うことなく、すべての富をごく一握りの最富裕層にだけ還流する仕組みは、持続可能ではないし、正義にも反する。

 コロナ禍に対して世界の国々が20兆ドル規模の景気刺激策を実行したことにより、状況が本当に深刻化すれば、政府も新自由主義的な自由市場イデオロギーと決別できることが明らかになった。しかし、そうするくらいなら、私たちはもっとインフラへの投資を増やし、悲劇が起きた後ではなく、その前にレジリエンスを高めるべきなのではないか。

『フィナンシャル・タイムズ』紙の社説が端的に述べたように、「ウイルスは、私たちの社会における社会的契約の脆弱さを浮き彫りにした」のだ。その結果、「最近まで突飛な考え方だと片づけられていたベーシック・インカムや富裕税などのアイデア」も俎上に載せるべきだと、同紙は主張している。

 企業は、変革を呼び掛け、自社も好ましい方針を採用することにより、平等な再分配を推進できる。アディダスパタゴニア、マター、エバーレーンなど、多くのアパレルブランドは、自社のサプライチェーンで働く人たちが生活していくのに十分な賃金を支払う方針を打ち出した。

 2020年12月には、有力投資家で大富豪のポール・チューダー・ジョーンズ(すべての人のためになる経済を築くことを目指す団体「ジャスト・キャピタル」の共同設立者でもある)は、「低賃金という偽りの神」を拒絶し、企業に対して、人々が生活していけるだけの賃金を支払うよう呼び掛けた。

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 最後に、2020年に起きた出来事の中で、明るい材料を2つ紹介したい。

 まず、企業は、必要であれば素早く方向転換できるということ。多くの企業は、きわめて短い期間で生産体制やサプライチェーンを全面的に見直した。1年も要さずに新型コロナウイルスワクチンの生産にこぎつけた製薬業界もその一例だ。私たちにできることは、けっして少なくない。

 次に、2020年春に世界が活動を停止した時、ロサンゼルス、北京などの大都市の住民は、きれいな青空を見ることができた。感染症の流行によりこれが成し遂げられるのは好ましいことでないが、私たちはこれを機会に、クリーンな世界で生きることの素晴らしさを知ることができた。

 世界でワクチン接種が進めば、苦しみが遠からず終わり、すべての人のために繁栄する世界を築き続けることができるかもしれない。全体として見れば、想像を絶する保健上の危機の中でも、持続可能性に関する取り組みは続いている。それは、避けて通れないことなのだから。

注:ハーバード・ビジネス・パブリッシングは2020年7月の1カ月間、フェイスブックとインスタグラムへの有料広告を停止した。


HBR.org原文:How Did Business's Role in Society Change in 2020? December 29, 2020.