構造的柔軟性
変化が激しい時期には、柔軟性が極めて大きな価値を持つ。セーリングになぞらえて考えてみよう。波が荒い水面では、風上への帆走が非常に困難となりうる。可能な限り風上に向かって舵を取ろうとすると、波に激しくぶつかりながら進むことになりかねず、船の速度が落ちる。風下に舵を取れば、波に対して角度がつき、速度を上げることができる。距離は長くなるが、この操縦のほうが柔軟性が高く、速い場合がほとんどである。
一部の業界はすでに、極端な変動に直面する中で柔軟性の価値を認識し、戦略を適宜変更している。
アルミニウムの生産を考えてみよう。新しい製錬設備への投資といった資本プロジェクトの将来的な収益は、非常に変動しやすい電力とアルミニウムの価格に左右される。価格の不確実性が意味するのは、アルミニウム販売からのキャッシュフローが、生産コストをカバーするのに不十分な場合がある──別の言い方をすれば、コージェネレーション(熱電併給)や契約電力の販売による収益より低いかもしれない──という可能性だ。
アルミニウム生産者の大半は、エネルギー価格が高い時には生産を一時停止して、利用可能な電力を送電網に販売する戦略を備えている。生産のみに特化する硬直的な計画に固執する、ごく少数のアルミニウム生産者は、より柔軟な戦略を選んだ企業よりも利益が著しく低い。
別の例として、調達戦略が挙げられる。今日のサプライチェーンは多くの外生的要因によって打撃を受けている。たとえば、ロシアのウクライナ侵攻によって、チタンやニッケル、ネオンといった原料の供給が遮断された。中国のゼロコロナ政策によって複数の業界で製造が一時停止し、自動車からスマートフォンまでさまざまなモノの生産が妨げられた。
柔軟なサプライネットワークを持ち、異なる地域にいる複数のサプライヤーから調達できる企業は、こうしたもろもろの混乱に対処しやすい。硬直的なサプライチェーンを持つ企業は、現在の騒然とした環境で苦労し続けている。
ダイナミックな計画立案
予測不能な世界では、計画の立案など諦めて完全に放棄したくなるかもしれない。しかし、優れた業績が偶然の産物であることはめったにない。たとえ道筋を明確にできなくても、方向性は必要だ。
戦略を策定する際、極端な変動にうまく対処するには、アプローチを変えなくてはならない。戦略の意思決定と遂行を、固定的な「計画して実行する」方式から、ダイナミックで継続的なアプローチに進化させる必要がある。
デル・テクノロジーズは、マイケル・デルによる2013年10月の株式非公開化の直後、この新たな方法を早々に導入した1社となった。毎年経営陣が固定的な戦略計画を立てるという従来の計画方法から、重要な判断事項を継続的に特定して、意思決定を下すことに重点を置くアプローチへと切り替えた。
この新しいやり方と、不確実性の下で戦略的意思決定を行う新たな手法が相まって、同社は2013年以降に営業利益を4倍以上増やすことができた。デルの経営陣は計画立案を諦めなかった。不確実性が高まるテクノロジーの世界を考慮して、自社のやり方をより目的に見合ったものへと適応させたのである。
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予測不可能なこの時代には、戦略の新たな概念が求められる。本記事(およびベインでの同僚マーク・ゴットフレッドソンとの共著によるHBR論文、Strategy-Making in Turbulent Times)で述べているように、決定論的な予測に基づく硬直的な計画は破棄し、よりダイナミックで意思決定重視のアプローチに切り替えなくてはならない。柔軟性と適応性を、経営陣の思考の中心に据える必要があるのだ。
そうしなければ、あまりに多くの企業が、バタフライ効果による予測できない変化の犠牲になってしまうだろう。
"In Uncertain Times, the Best Strategy Is Adaptability," HBR.org, August 24, 2022.