今日、企業や社会、家庭にとって最大の課題である「少子高齢化による労働力不足」。その対策をDHBR最新号の特集では提示します。特定のスキルを持つシニア人材の退職による業務不全、中高年のポスト占拠で多発する若手逸材の離職、親の介護がもたらす過労など、様々な難題への対応策を、米国の先進企業の実践事例とともに解説しています。シニア人材への適切な施策が、誰もが働きやすい職場環境をつくり、企業の競争優位に結実することを8つの論考で明かします。

中高年社員の経験とナレッジを活かす

 特集1番目の論文の冒頭4ページを読んでいただくと、米国の実態と特集の概要がわかります。通説に反して、シニアの勤労者は健康で、仕事への満足度や会社への忠誠心は高く、経験やナレッジを活かせれば、生産性が高まることを示します。

 勤務体制や職場環境の改善で生産性向上を図るホーム・デポやゼロックス、異世代との協働で組織を活性化するファイザーやエアビーアンドビーなどが紹介されています。

 経済変化に適応した新しい職能スキルを学び続けることは全世代に必要ですが、中高年の再教育は難しいと考える人がいます。そうした偏見を、事例をもって否定するのが特集2番目の論文です。働きながらの学習プログラムや、再就職に有利な資格取得に絞った教育など、シニア世代の学習と労働が両立する7つのポイントを紹介します。

 特定のスキルやナレッジを持つシニアが退職すると、その業務の継続が困難になることがあります。労働現場では大きなリスクですが、経営者が認識していないケースが多い。労働者を頭数で考えがちだからです。特集3番目の論文では、このリスクにどう対処すればよいのか、3つのアプローチを提案します。

 特集4番目の論文は、中高年がポストを占拠し、若手の昇進機会が少なくなり、逸材の離職を招くことへの対処策です。これは日本でも難題で、示唆深い論文です。

 シニア世代の私生活で顕在化しがちなのが、親の介護問題です。米国でも多くの家庭で親を介護していますが、公的支援を使い切り、有休もすべて消化した結果、退職に追い込まれる人が増えています。そこで、先進企業では、従業員の介護負担を軽減する取り組みに本腰を入れています。特集5番目の論文では、事例をもとにその方法を詳述します。

 特集の6番目に、世代ギャップを実証データで示します。対策の立案は事実の把握から、というのはまっ当なアプローチです。

 一方、日本企業の実証データから、加齢に伴う人の内面の変化を明らかにし、それをいかに組織の強みにつなげるかを考察するのが、特集7番目の論文です。心理学と経営学の知見を活かして、シニアの「心の高齢化」を防止するというユニークな研究がベースとなっています。

 この論文で示されるシニア世代の長所を労働現場で活かしているのが、特集8番目に登場する、すかいらーくグループの創業者、横川竟氏です。横川氏が76歳で起業した高倉町珈琲の本部スタッフの平均年齢は65歳。彼らが活きいきと仕事しているのはなぜか、会社員の定年後起業をどう考えるか、現在81歳の横川氏自身は今後何を目指すのか、などについてお話を伺いました。