米国のIT企業を中心にいま、優秀な経済学者の熾烈な獲得競争が行われている。アマゾンではすでに150人以上の経済学者が働き、大きな成果を上げている。世界的大企業から新興企業まで、最先端を行くIT企業はなぜ、経済学者を必要とするのか。また、あなたの会社で経済学者の知見を活かすためには、どうすればよいのだろうか。
最近コーヒーを飲みながら話をしていたとき、数十億ドル規模の某IT企業のCOOが、社内に経済学者のチームを設けることに関心があると語った。彼は以前に経済学者とともに仕事をしたことがあり、その成果に興奮していた。そこで、経済学のツールキットをビジネスのより広範な分野にどう採り入れたらよいか、知りたいのだという。
Ph.D.を有する経済学者のチームをつくるには、どこから手をつければよいのだろうか。私たちは近頃よく、この手の会話を交わす。経済学者はIT業界で大きな役割を果たすようになってきており、IT企業は経済学者を社内に取り込む方法についてアドバイスを求めるようになってきているのだ。
たとえばアマゾンは、実はすでに150人を上回る経済学Ph.D.取得者を雇用している。最近でも、チーフ・エコノミスト(前職は終身職の経済学教授であった)から、Ph.D.を取得したばかりの若い経済学者までが新たに加わり、全社的なビジネスの課題を割り当てられている。具体的には、アマゾンにおけるレビュー関連の設計の選択から、アマゾンで扱われる商品需要の推定まで多岐にわたる。
経済学Ph.D.を積極的に採用しているのは、アマゾンだけではない。グーグル、フェイスブック、マイクロソフト(筆者の一人であるスーザンはかつて、同社のコンサルティング・チーフ・エコノミストを務めていた)から、エアビーアンドビーやウーバーまで、いまや多くの企業が経済学Ph.D.取得者からなる大規模なチームを擁している。その他にも数十社ものIT企業が、規模は小さめだが経済学者の一群を雇用している。
筆者の2人は、IT業界関連の問題の研究に自分たちのキャリアの大半を費やしてきたが、最近ではIT業界の経済学者の(学界とビジネスの双方における)コミュニティを構築する手助けをしている。また、これを契機に近頃、『ジャーナル・オブ・エコノミック・パースペクティブ』誌に論文を寄稿し、経済学者がIT業界で担っている仕事について、および経済学者のツールキットがIT企業に自然に応用できる方法について探究している。
本稿では、経済学Ph.D.の研究過程における、2つの中心的要素に焦点を当てる。どちらもIT企業が興隆するはるか以前から存在していたもので、IT業界にとりわけ適した要素である。