米国の剛腕経営者は極めて合理的で、優れた成果を上げた人材には高額な報酬を支払い、目立った成果を残せない人は冷遇する。そんなイメージもあるが、筆者らの調査によると必ずしもそうではなく、むしろ社員間の給与格差が小さいという興味深い結果が示された。本記事では調査の概要に加えて、なぜそのような結果が導かれるのか、いくつかの仮説を提示する。
より体系的な経営管理手法を実践している企業ほど、給与の平等性が高い。
これは私たちが、1月に米国経済学会の会議で発表した新たな研究で明らかにした結果である。研究はまだ予備段階で、現在も継続中だが、この結果は特筆すべきものであり、信頼性がありそうだ。正直なところ、私たち自身も驚いている。
米国勢調査局は2010年と2015年に、筆者の一人(ニコラス)とエリック・ブリニョルフソン、ジョン・ヴァン・リーネンなど経営管理の専門家から成る調査チームと共に、「経営・組織管理調査(MOPS)」を実施した。
各調査期間に、米国の代表サンプルとして約5万の製造工場から、次の経営管理手法に関する情報を集めた。業績測定(業績に関するデータの収集・分析)、目標設定(困難だが実現可能な、短期および長期目標の設定)、インセンティブ(業績のよい社員にはしっかり報い、業績の悪い社員にはトレーニング、配置換え、解雇を実施)である。
ここでは、明確性、公式度、頻度、具体性が高い慣行を「より体系的な経営管理手法」としている。研究者たちはMOPSと関連データをもとに、体系的な経営管理の実施が、企業ひいては経済全体にとってどれほど重要であるかを証明した。このような手法をより多く実践している企業は、業績がよい傾向が見られるからだ。私たちは、体系的な経営管理が、社員にどんな影響を及ぼすかを突き止めたいと考えた。
MOPS調査において、体系的な経営管理手法をより多く報告した企業ほど、給与の支払い額は平等だった。これは、社内の給与差を90パーセンタイル(下位)と10パーセンタイル(上位)で比較測定したものである。
私たちは、むしろ逆の結果を予想していた。米国の剛腕経営者は概して(ミット・ロムニーからジャック・ウェルチ、ドラマ「30 ROCK/サーティー・ロック」の登場人物であるジャック・ドナギーに至るまで)、利益を社内の高給取りに多く分配しているのだろう、というのが世間的なイメージだ。したがって、より体系的な経営管理の下では、業績のよい社員への給与が他の社員よりも高額になり、社内での格差増大につながっているのだろうと私たちは仮定していた。
ところが、上記のグラフが示すように、実際は正反対である。雇用、資本利用、企業の存続年数、産業、州、社員の学歴を調整した後でも、結果は同じだった。
前述の通り、MOPSで測定された経営管理手法は、業績測定、目標設定、インセンティブという3つのカテゴリーに大別できる。調査によると、体系的な業績測定の実施は不平等を顕著に弱める傾向があり、これが体系的な経営管理と不平等の負の相関を促進している。かたや、体系的なインセンティブ慣行の積極的な実施と不平等は、わずかながら正の相関にある。
換言すると、調査結果は次のことを示している。自社の業績に関する具体的なデータをひんぱんに収集して分析する企業では、所得分布の上位と下位に位置する社員の格差が小さくなるようだ。