職場における社員の不正は、あらゆる企業にとって大きな問題となりうる。金銭的な打撃をもたらすのみならず、誠実な社員が離職したり、彼ら自身もそれを受け入れたりするおそれがある。不正行為を防ぐには通常、研修などを通じて倫理観の重要性や罰則の共有をすることが一般的である。だが、自制心を保つのが困難な状況もあるだろう。筆者は、個人の努力に委ねるのではなく、「感謝の文化」を醸成して仕組みで解決することを提案する。
職場での不正は、あらゆる企業にとって大きな問題となりうる。最近の推定によると、米国企業は社員の窃盗と詐欺行為により、年間500億ドルもの利益を失っているという。さらに悪いことに、この問題は深刻さを増している。公認不正検査士協会の指摘によれば、職場での現金以外の窃盗行為は、2002年から2018年の間に10%以上も増加している。
損害は金銭的なものだけではない。不道徳な同僚のいる職場で働くことはストレスにつながるばかりか、誠実な社員が離職したり、彼ら自身も不道徳な規範を受け入れたりするおそれがあり、企業文化への悪影響が助長されることになる。
従来、企業は「トップダウン」型の方策で不正と戦ってきた。たとえば、マネジャーや人事担当者が研修を行い、倫理的行動の重要性、会社がそれをどう監視するのか、倫理に背いた場合にどんな影響が及ぶかについて説明をする。
こうした方策はいずれも、「自制心を働かせている社員」に何らかの形で依存しなければ効果がない。つまり、魅力的な金銭的利益、物質的利益、さらには人間関係上の利益でも、真の善行に反するのであれば社員は追求してはならない、とされる。しかし、数十年に及ぶ心理学の研究が示すように、自制心を保つのは困難な場合もある。
したがって、大勢の人々が職場で不正を働いたことがあると認めたことが、多くの研究で相次いで明らかになったのも驚くに値しない。それゆえに、従業員不正保証(employee dishonesty bond)が人気を集めている。これは、社員が会社から窃盗を働いた場合の損失を、事業主に補償する保険として機能する。上からの介入施策で不正を十分に減らせなければ、雇用主は損失に備えた投資を余技なくされるのだ。
しかし私と同僚は、この問題を解決する別の方法があるのではないかと考えた。それは「ボトムアップ」型のアプローチだ。すなわち、身勝手な衝動を抑える社員の努力に委ねるのではなく、誘惑に打ち勝つ力を自動的に強化するのだ。
私たちの過去の研究で、社員は「感謝の気持ち」を持つことで、忍耐力と自制心を容易に強化できることが明らかになっている。そこで、感謝によって不正行為も減らせるかどうかを調べることにした。