●成長のポテンシャルを認める
共感力は、持つ人と持たない人がいる人間の性質だと考えると、共感に満ちた職場をつくるのは不可能に見えてくる。学習できないことを学習しようとするなんて、時間の無駄だというわけだ。
この種の「固定観念」を持つ人は、他人とつながりを持つ努力をあまりしないことを、私とキャロル・ドゥエック、そしてカリーナ・シューマンは発見した。このような考え方が組織に蔓延していると、共感を集合価値として推進する努力は失敗に終わるだろう。
幸い、人間のマインドセットは変えることができる。私たちはこの研究の追跡調査で、共感は人間の性質ではなく、スキルであるという証拠を被験者に示した。すると彼らは、たとえ自然に共感が湧かなくても、共感を抱くために努力するようになった。
すなわち、共感を構築するための第一歩は、「共感は構築できる」と認めることである。リーダーはまず、社員のマインドセットを調べて、理想に近づけることを教えるべきだ。
●正しい規範を強調する
組織やグループで、最も声の大きな人が、最も思いやりのある人であることはめったにない。だが、最も大きな声が会話を支配すると、私たちの認識まで乗っ取られることがある。
パーティ好きの大学1年生が、週末の武勇伝を自慢しまくると、ほかの学生たちは、平均的な大学生は一気飲みが大好きなのだと思い込むようになる。あるチームメンバーが声高に悪質な態度を取ると、同僚たちは自分たちの態度が多数派だと勘違いしかねない。こうした「幽霊規範(phantom norms)」は、人々がそれに流されてしまうと、ポジティブな変化をつぶしてしまう恐れがある。
リーダーは、正しい行動に社員の注目を集めることで、幽霊規範を退治できる。組織には、思いやりのある行動を取る人もいれば、そうしない人もいる。仲間と協力する人もいれば、競争する人もいる。
共感は、物言わぬ多数派に属することが多い。インセンティブや表彰などの形で、それを目立つようにすれば、社員は共感が広く存在することを認識して、ポジティブな規範の「音量」を上げることができる。
●カルチャーリーダーを見つけて協力してもらう
NBAのチームであれ、企業の事業部であれ、警察署であれ、どんなグループにも、チームのまとまりをよくしてくれる人がいる。
それが彼らの正式な職務であるとは限らない。彼らは一番の人気者でも、最大の権限を持つわけでもないかもしれないが、最も幅広くつながりを持っている。情報もアイデアも価値観も、彼らを通じて広まる。そのグループにおける、見えないインフルエンサーなのだ。
ベッツィー・レビー・パラックの研究チームは最近、中学校の文化を変えるにあたり、このインサイトを活用した。いじめ反対キャンペーンを企画するとき、複数の生徒代表を任命して、キャンペーンを学校全体に広げる手伝いをしてもらったのだ。
生徒代表が学校内でどのくらいつながりを持っているかには、個人差があった。レビー・パラックは、生徒主導のいじめ反対キャンペーンはうまくいったが、最もコネクトしている生徒がリーダーシップを取ると、とりわけうまくいくことを発見した。
共感的な企業文化をつくるときも、まず、コネクターとなる人物を特定して、この大義を広めるのを手伝ってもらうといいだろう。そうすれば、新しい理想が「人気を博す」る可能性を高めるだけでなく、他人とつながっている社員が評価されるようになり、別のポジティブな社会規範も強調することができる。
共感は、話題になるにふさわしい要素であり、リーダーがみずからのビジネスのために共感を構築しようとするのは賢い試みだ。ただし、それを組織のDNAの一部にするためには、文化が有機的に、集合的に、そしてしばしばボトムアップ式に構築されて変化することに、リーダーは目をこらす必要がある。
HBR.org原文:Making Empathy Central to Your Company Culture, May 30, 2019.