アレクサやグーグルホーム、Siriといった音声アシスタントはすでに、私たちの生活に入り込んでいる。「モバイルファースト」から「ボイスファースト(音声ファースト)」というスローガンが聞こえるように、いかなる業種の企業にとっても音声技術の活用は不可避である。この波に乗り遅れることは好機を逃すだけでなく、大きな損失を生みかねない。


 音声アシスタントやスマートスピーカーなど、あらゆる種類の「ボイスファースト(音声ファースト)」技術が著しい成長を遂げ、普及している。ボイスボット.ai(Voicebot.ai)の報告によると、米国でのスマートスピーカーの設置台数は2018年から2019年にかけて40%増加し、現在6600万台を上回る。

 国際市場は、さらに目覚ましく成長している。たとえば、オランダでのスマートスピーカーの普及率は、わずか4ヵ月半で0%から5%という爆発的な伸びを見せ、とどまるところを知らない。

 しかし、音声ファーストは「音声オンリー」という意味ではない。スクリーン付きのスマートスピーカー(一般的には「スマートディスプレイ」と呼ばれる)も人気を博している。

 米国のスマートディスプレイの所有者数は、2018年1月には130万人だったが、同年末には870万人に増えた。558%の増加である。アマゾンのエコーショー(Echo Show)やグーグルのホームハブ(Home Hub)などの製品が、音声ファースト技術への期待値を高めたのだ。

 人工知能(AI)と機械学習の入り口の役目を果たす音声技術は、すでに幅広い業界で存在感を示している。いくつかの事例を紹介しよう。

 ●医療

・高齢者はしばしば孤独や孤立、うつ状態を経験するが、スマートスピーカーは養護施設や高齢者生活施設で、これらの問題を軽減する効果を発揮することがわかった。

トライアッド・ヘルスAIは、パーキンソン病患者の運動療法を補助する、音声ファーストのソリューションを開発した。

ニューイングランドの救急車は音声ファーストを導入し、救急救命士の不要なペーパーワークを削減した。

 ●出版

・サイモン&シュスターは、アレクサ(Alexa)・スキル(アマゾンアレクサの音声サービス)として「スティーヴン・キング・ライブラリー」をリリース。アレクサが読者に事前にさまざまな質問をして、次に読むべきスティーヴン・キングの小説を提示する。

・ノベル・エフェクトは、人が読み聞かせをする際に音響効果を補完する技術を開発した。同社は、アレクサ・アクセラレータ(アマゾンとテックスターズのジョイントベンチャー)の投資先に選ばれた最初の企業だ。教育の場面では、この技術は読解力と記憶力を向上させている。

 ●銀行

・キャピタル・ワンは、遡ること2016年、金融企業として初めてアレクサ・スキルを導入し、顧客が自分の口座とやり取りできるようにした。その後、多くのクレジットカード会社と金融機関が追随した。

・フロリダを拠点とするベスト・イノベーション・グループは、全米の信用組合とリテール(小口)銀行が音声ファーストの銀行業務を提供できるプラットフォームを開発した。顧客はアレクサとグーグル・アシスタントのプラットフォームを使って、住宅ローンの支払い、口座間送金、口座履歴の閲覧などができる。

 ●接客・サービス

・マリオットは5つの主要なホテルグループでアレクサ対応機器を展開している。一方、ハイアットはグーグル・アシスタントを導入し、宿泊客に翻訳サービスを提供している。

・ホテル業界にとどまらず、エクスペディアやカヤックなどの旅行会社も、顧客に各種の音声ファーストサービスを提供している。また、ダンキンドーナツやピザハット、スターバックスなどの飲食店は、この1~2年間に音声注文を開始した。

 ●自動車

・驚くべきことに、音声アシスタントは家の中よりも車内のほうが人気があり、普及している。ボイスボット.aiの最近のデータによると、米国でスマートスピーカーの音声アシスタントを家庭で使っている人の数は4500万人だが、車内で使っている人の数は7700万人だという。

・メルセデス・ベンツからBMW、テスラ、シボレー、フォードに至るまで、主要な自動車メーカーが製造するほぼすべての車種に、音声ファースト技術が搭載されている。

 ●ゲーム

・DCコミックスは2016年の映画『バットマン vs スーパーマン』のプロモーションの一環として、音声による謎解きゲーム“The Wayne Investigation”をアレクサ・スキルでリリースし、成功した。この成功を受けてアマゾンは、音声ベースのゲームの開発を開発者に奨励するプログラムを導入した。

・アクティビジョンの“Destiny 2”は、アレクサ・スキルを活用するゲームの先駆けとなった。ユーザーは音声によって、物語の設定や背景などの確認、アイテムの装備、フレンドへのメッセージ送信などができる。

・サンフランシスコのベイエリアを拠点とするスタートアップのDrivetime.FMは、車内のみで楽しむ音声ファーストのゲームを開発するために、シードファンディングで400万ドルの資金を調達。音声対応ゲームの勢いを物語っている。