これらの失敗は、企業、業界、顧客、そして社会全体にとって、未実現利益の形で蓄積する。我々が、「囚われの価値(trapped value)」と呼ぶものである。
一つの例を挙げよう。5Gネットワークは、始まったばかりのIoT(モノのインターネット)に大いに役立つだろう。日々利用している機器がインターネットに接続されて、きわめてローカルなネットワークとのデータの送受信が、サービス提供者や装置メーカーへの送信も含め、安全な形でクラウド全体にわたって行われるはずだ。
玄関ベルやサーモスタットのインターネット接続といった、今日のIoTサービスは、まだまだ単純で、時に注目を浴びるためだけの仕掛けにすぎない場合もある。だが、本当の意味でインターネットに接続された住宅は、自宅でできるだけ長く余生を過ごしたいと望む年老いたベビーブーム世代にとってはとりわけ、この上ない恩恵を生み出すだろう。
移動から薬まで、あらゆることを監視するセンサーとアシストする装置のおかげで、高齢者はより高い割合でより長く、住み慣れた場所で暮らすことができるようになるだろう。同様に、インターネットにつながったロボットや、3Dプリンターでつくられた人工装具や、遠隔医療サービスも、すべてが未来の家の一部となるだろう。真のスマートホームでは、これらが一体となって機能するために、5Gの容量、信頼性、エネルギー効率、低遅延が必要となるはずだ(同時に、ユーザーデータの収集と使用に関して膨らむ一方の懸念に対する、よりよい答えも必要となるだろう)。
このような活用事例は、多大な「囚われの価値」を解放してくれる可能性がある。医療費の削減、生活の質の向上、より多様で包摂的(インクルーシブ)な社会の可能性といった、私たち誰もが共有できる価値だ。
だが、これらの応用から影響を受ける業界と、最も恩恵を受けるユーザーが非常に拡散しているため、通信事業者自身を含めた今日の企業には、日々拡大しつつある価値のギャップを理解することが、ほとんどできていない。
2つ目の例として、スマート自動車、接続された道路、その他のインフラの多大なる影響について考えてみよう。
アクセンチュア・ストラテジーによる2017年の研究では、5Gネットワークが可能とするスマートシティの応用により、今後7年間で米国に300万の新たな雇用が創出され、GDPが5000億ドル増加すると試算している。失われた生産性や、交通渋滞で無駄になっている時間といった形で、今日「囚われている価値」が解放され、「隊列走行」によってもっと効率的に移動する自動車のおかげで大気汚染も減少するという。
このように恩恵は甚大ではあるものの、従来型の戦略では、それらを考慮するのは困難である。さらに想像を超えるのは、スマート交通の中で最も期待されていること、すなわち交通事故死の劇的な減少である。
米国だけでも、自動車事故死が10%減少するだけで、毎年4000人の命が救えることになる。全自動運転技術が全米レベルの規模で利用可能となるのは、まだ少し先だろうが、こうしたポジティブな変化は、保険から車両の設計に至るまで、すべてに影響を及ぼし、実に大きな意味を持つ「囚われの価値」を解放するだろう。
スマートホームやスマートシティ以外にも、5Gネットワークの速度、容量、信頼性は、あらゆる場所で同じように目覚ましく、新たなイノベーションを加速することが予想される。
たとえば農業は、地中で接続されたセンサーや作物を監視するドローン、気象の統合追跡技術により、はるかに効率的になる可能性がある。
携帯電話向けのエンターテインメントも、5Gの速度、特に遅延の短縮により向上するはずだ。これまで以上に高品質の動画が提供され、そこに拡張現実(AR)や仮想現実(VR)による新しいタイプの双方向機能が加わるだろう。