自問自答することの重要性

 だれでも社会に出てすぐの頃は、先輩たちからあれこれ指導を受けたり、後押しされたりする。だれかにたえず見守られ、コーチングやメンタリングを受ける。あなたもそうだったことだろう。成功を収めたリーダーたちもそうだった。

 しかし、昇進していくにつれて、忌憚のないアドバイスをしてくれる人は減っていき、ある時点を過ぎたら、何事もおのれの裁量で処理しなければならない。そうなると、上司がいればの話だが、あなたの上司は、すでにあなたの日々の行動にほとんど無関心になっていることだろう。

 何かミスを冒そうものなら、それが上司の耳に入る頃には時すでに遅しである。上司のあなたを見る目を変えるのも、そうなってからでは遅すぎる。しかも、そのミスで業績に累が及ぶ頃には、どんな手を打とうと、もう出世街道には戻れない。

 どれほど才能にあふれ、いかに成功を収めていようと、人はだれでもミスを犯す。悪癖も身につく。気づかないうちに世界は微妙に変わり、かつてはうまくいったことも、だんだんうまくいかなくなる。

 ゴールドマン・サックスで過ごした22年間、私はさまざまな事業に携わり、数多くのビジネス・リーダーと一緒に働いたり、彼ら彼女らをコーチングしたりする機会に恵まれた。ゴールドマン・サックスのシニア・リーダーシップ研修の委員長、そしてマネージング・ディレクターたちの評価、昇進や能力開発を課題とするパートナーシップ委員会の共同委員長も務めた。

 このような経験に加えて、その後、さまざまな業界で多数の企業幹部たちにインタビューしたことから、いかに卓越したリーダーでも、その会社人生の間には道を外し、苦闘を強いられる時期が必ずあることを確信した。しかしその渦中にある時は、なかなかそうとは気づかない。

 事業環境や競合他社の変化、そして私生活の変化によっても、気づかないうちに調子を狂わされることがある。大成功を収めたリーダーとて、けっして道から外れない方法を承知しているわけではない。しかし、状況が悪化すれば、すぐさまそれに気づき、できるだけ素早く軌道修正するテクニックを身につけている。これこそ成功者の特徴といえよう。

 私の経験では、その最善の方法とは、たとえば3カ月か6カ月に一度──もちろんうまくいっていないと感じた時はいつでも──一歩退き、自身に正直に「はたして自分はこれでよいのか」「やり方を変えなければならないのはどこか」と、みずからに問うことである。単純なことに思えるが、マネジメントとリーダーシップの基本について自問自答することで、衝撃を受ける人も少なくない。

自問自答する ─Testing Yourself─

 みずからのリーダーシップを評価し、進むべき道から逸れないようにするには、時折一歩下がって、自問自答してみるとよい。

【ビジョンと優先課題 ─Vision and Priorities─
 リーダーは、日々の仕事に追われて、部下たちにビジョンを伝えることをつい怠りがちである。特に「何に努力すべきか」について、部下自身が優先順位を判断するように、ビジョンを伝えていない。
[Questions]
・どれくらいの頻度でビジョンを伝えているか。
・そのビジョンを実現するための優先課題を3~5つに絞ったうえで伝えているか。
・何がビジョンであり、何が優先課題なのかと問われて、部下たちは答えられるか。

【タイム・マネジメント ─Managing Time─
 リーダーは、どのように時間を使っているかを認識していなければならない。優先課題には相応の時間を配分する必要もある。もちろん、部下たちもそうする必要がある。
[Questions]
・どのように時間を使っているか。それは、優先課題に取り組むうえで適切なものか。
・部下たちはどのように時間を使っているか。それは、優先課題に取り組むうえで適切なものか。

【フィードバック ─Feedback─
 リーダーは部下たちに、タイミングよく、かつ率直なコーチングを怠りがちで、年度末の人事査定の時がせいぜいである。その結果、はからずも部下たちには不満がくすぶり、能力開発の機会も失われかねない。また、リーダーは自分にアドバイスとフィードバックを欠かさない部下を育てなければならない。これも重要なことの一つである。
[Questions]
・部下たちに、行動を起こすきっかけとなるようなフィードバックを、タイミングよく与えているか。
・耳が痛いとはいえ、聞かなければならない話をしてくれる年下の社員が5、6人いるか。

【サクセッション・プラン ─Succession Plannin─
 リーダーがサクセッション・プランに後ろ向きだとすると、おそらく権限移譲が不十分で、それがスムーズな意思決定を妨げているかもしれない。後継者として仕込み、手応えのある仕事を与えないと、優秀な社員は会社を去ってしまうかもしれない。
[Questions]
・頭のなかでは、後継者候補を少なくとも1人、あるいは数人選んでいるか。
・彼ら彼女をコーチングし、チャレンジするに値する仕事を与えているか。
・十分権限委譲しているか。権限委譲が不十分なため、スムーズな意思決定プロセスになっていやしないか。

【現状認識と調整 ─Evaluation and Alignment─
 世界は絶え間なく変化している。リーダーはそれに伴って事業を適応させなければならない
[Questions]
・計画は事業のKFSを反映しているか。
・白紙の状態から事業を設計しなければならないとすると、どのように計画するか。またそれは、現在の計画とはどのような点が違っているだろうか。
・これらの質問に答えるためにタスク・フォースを立ち上げて、部下たちから提案させるべきか。

【プレッシャーに負けないリーダーシップ ─Leading Under Pressure─
 ビジネス上、プレッシャーは不可避のものである。リーダーがストレスを感じている時、部下たちはその一部始終を冷静に見つめており、企業文化や部下たちの行動に大きな影響を及ぼす。リーダーとして成功するには、自分のストレスの引き金は何かを認識し、ストレスを強く感じている時には、おのれの信念と組織の価値観に基づいた行動を心がけ、自己制御する必要がある。
[Questions]
・どのような出来事がプレッシャーになるか。
・プレッシャーがかかると、どのような行動に出るか。
・その行動は部下たちにどのような信号を送っているか。その信号は前向きなものか、それともビジネスの足を引っ張るものか。

【本当の自分を失わない ─Staying True to Yourself─
 リーダーとして成功するには、ビジネス上のニーズに合致したリーダーシップ・スタイルを開発しなければならないが、それにはおのれの信念と性格にも合致していなければならない。
[Questions]
・リーダーシップ・スタイルは自分にとって自然なものか。それは本当の自分自身に基づくものか。
・自分の考えをもれなく伝えられているか、それとも遠慮しがちになってはいないか。
・当たり障りのない言動が多くはないか。
・昇格やボーナスのことが気になるあまり、手加減したり、自分の意見を言うことをためらったりしてはいないか。

 ここで、私がインタビューした、某大手金融機関のマネジャーの例を挙げよう。昇進を見送られていた彼は、上司から年度末の人事考課の結果を見せられて、びっくりした。「管理者として問題あり」と、これまで指摘されることのなかった点が挙げられていたのである。

 彼の上司は評価結果に関するコメントをいくつか読み上げたが、コミュニケーション能力が劣ること、事業戦略をうまく説明できないこと、チームから孤立する傾向があることなどが欠点とされていた。