誰しも自分の価値観を大切にして、自分らしく働きたいと思っていることだろう。興味深いことに、筆者らの調査によると、「仕事をしているときの自分」と「仕事をしていないときの自分」のアイデンティティが一致していると感じる人は、不正やごまかしを働く可能性が低いことが判明した。本記事では、アイデンティティを統合させる4つの方法を示す。


 人はみな、自分に正直に仕事をしていると感じたいものである。

 たとえば、環境問題や学ぶ機会、子育てを大事に考えている社員や入社希望者は、その価値観とぶつかったり、それを妥協させられたりするような仕事は、やりたくないだろう。職場でもあるがままの自分を表現してもいい、それによって評価が下がったり、成長や昇進の機会を奪われたりしない、そう感じたいのだ。それが、社員に「ありのままの自分」で働いてもらおうという考え方である。

 こうした考え方が最近広がっている背景として、企業で働くミレニアル世代が増えていることがある。実際に、いまでは米国のどの世代の労働力よりも多く、2017年時点で、米国の被雇用者全体の35%がミレニアル世代だった。これはジェネレーションX(約33%)よりわずかに多く、ベビーブーム世代(25%)をゆうに超えている。そしてミレニアル世代は、自分の価値観と一致するブランドの商品を購入し、そうしたブランドで働く傾向が強いことで知られる。

 しかし、企業と社員の価値観を一致させるのが重要であることには、ある明確な理由もある。それは、モラル崩壊の防止だ。マハディ・エブラヒミ、ヴァネッサ・パトリックと共同で行った最近の調査の結果、自分らしく仕事に打ち込める職場で働く社員は、自分を「偽りのない本当の自分」だと感じ、それが結果的により倫理的な行いにつながり、ビジネスリスクを軽減していることがわかった。

アイデンティティの統合性、一貫性

 4つの調査(被験者のべ約800名)を通して、アイデンティティの統合性が低い(自分に一貫性がないと感じる)人は、自分をごまかしているという意識が強く、結果的に、倫理に反する行為に走る傾向が強くなることがわかった。

 これは、被験者を、アイデンティティの統合を感じる状況と感じない状況に無作為に置く実験を行ったときの結果だ。具体的にはまず、被験者に「誰にでも複数の自分やアイデンティティがある」、すなわち仕事をしている人には「仕事をしているときの自分」と「仕事をしていないときの自分」の大きく分けて2つのアイデンティティがあると伝えた。その後、被験者にその2つの自分が「相矛盾し、二分されている」のか、それとも「矛盾なく統合されている」のかを考えさせ、そのように感じた具体的な瞬間を例として挙げさせた。

 自己矛盾・二分性があると感じた(統合性が低い)被験者は、一貫してぶれがないと感じた(統合性が高い)被験者よりも、ごまかしている意識が強く、不誠実な行動をとる割合が高かった。統合性が低いほうの集団は、統合性の高い集団に比べて、(裏表を当てる)コイン投げで正解した回数を偽って報告する傾向が見られた。

 職場を対象に行った別の調査では、自分の統合性を低く評価した社員(多様な業種にわたる)は、ごまかしている意識が強く、職場での不正行為に関する上司へのヒアリング結果と照らし合わせると、倫理に反する行動をとる傾向が強かった。

 たとえば、それぞれの社員がお金に関わる不正(「経費精算において領収書の金額を改ざんする」など)や、対人関係における不正(「仕事上で誰かに卑劣ないたずらをする」など)を働く可能性について上司に評価させたところ、全体的に見て、アイデンティティの統合性の低さ??自分らしくふるまえないこと??は、ごまかしの意識につながり、それは職場やその他の場所での倫理に反する行為と結びついていることがわかった。つまり、社員に自分らしく働いてもらうことは、企業にとって意味のあることなのだ。