企業内で人種・性別の構成が多様化するなか、ダイバーシティやインクルージョンの推進は喫緊の課題となっている。大企業の多くがダイバーシティ研修を行っているものの、その効果を計測しているところはほとんどない。そうした研修は本当に効果を上げられているのか。価値ある研修を実践するためには、何をすべきなのだろうか。


 ほぼすべてのフォーチュン500企業が、従業員にダイバーシティ(多様性)研修を行っている。しかし、その効果を計測したことのある企業は驚くほど少ない。

 残念なことである。というのも、ダイバーシティ研修は時に逆効果となり、本来なら恩恵を最も受けるはずの人々を保身的にさせるおそれがある、という証拠があるからだ。さらに、研修によい効果がある場合でも、プログラム終了後は持続しない可能性がある。

 我々はこれに好奇心を刺激された。もし我々が研修プログラムをつくり、その効果を精査したらどうなるだろう?我々が、行動変容に最も関わりのある科学的発見を駆使して、職場でのダイバーシティやインクルージョン(包摂性)の意識を高めるための研修をデザインすれば、従業員の態度を変えられるだろうか?よりインクルーシブな態度を促すことができるだろうか?それができた場合、変化は定着するだろうか?

 こうして我々は、ダイバーシティ研修の効果を測る実験をデザインした。その結果に驚き、最近、全米科学アカデミーの会報に発表した。

 我々はまず、1時間のオンライン研修コースを3種類つくった。ジェンダーバイアスの問題への対処法に焦点を絞ったもの、さまざまなバイアス(たとえば、ジェンダーや年齢、人種、性的志向)に関わる問題への対処法に焦点を絞ったもの、そして、バイアスに言及しない代わりにチーム内で心理的安全性を培うことの重要性に焦点を絞った対照実験である。対照実験を加えれば、ダイバーシティ研修の特定の効果を測ることができ(研修全般の効果を測るのではなく)、2種類あるバイアスのコースのどちらが、より大きな効果を出すアプローチであるかをテストできる。

 次に、国際的に知られる大組織の従業員1万人以上に参加してもらい、参加者3000人以上を3種類の研修のいずれかにランダムに振り分けた。最終的なサンプルは、61.5%が男性、38.5%が女性であり、その勤務地は63ヵ国にまたがり、約25%が管理職だった。

 コースの教材は態度や行動の変容に関する研究をもとにつくられ、特に保身的になるのを防ぐことに焦点を絞った。

 2種類のバイアスに焦点を当てた研修コースは、ステレオタイプの根底にある心理過程と、それがいかに職場での不平等を招くかを、著名な専門家が説明することから始まる。次に、潜在連合テスト(IAT)を行う。参加者はここで、自分が無意識のうちに持つバイアスについて考えさせられる。さらにその後、参加者は職場でよくある慣行(たとえば、履歴書を検討したり、業務評価をしたり、同僚とのつながりを持つとき)の中にあるバイアスやステレオタイプを乗り越える方法を学び、それらを使ってみる機会を与えられる。

 対照実験のための研修は同じ長さと形式で、フィードバックを受けたり、学んだ方法を実際に試してみたりする機会があるものの、バイアスに関して教える内容をいっさい含んでいなかった。

 研修の効果を検討する際には、女性や人種的マイノリティに対して、受講後の従業員がどのような態度を示すかを測った。また、受講後20週間にわたり、従業員が誰を非公式なメンターに選ぶか、誰を優秀だと認めるか、誰を手助けすると自発的に申し出るかを観察して、彼らの態度を測った。