(1)エートス/人柄

 スピーチやプレゼンの聞き手が話し手の信頼性を洞察するときは、人柄も要素の一つとなる。アリストレテスは、話し手の行動が本人の言葉を裏づけていなければ、信頼を失い、最終的に、その主張も力を失うだろうと述べている。

 たとえば、人権弁護士ブライアン・スティーブンソンがTEDで行った有名なトーク「司法の不公正さについて話さなければなりません」は、次のような自己紹介から始まる。「私は人生のほとんどを牢獄や刑務所で、また死刑囚の監房で過ごしてきました。私は人生のほとんどを低所得者地域で過ごし、絶望に満ちた環境やプロジェクトのために捧げてきました」

 スティーブンソンは、自分の学位や実績、受賞歴を並べたりはしない。履歴書ならそうしたかもしれないが、代わりに、自分を知らない聴衆に向けて自分の人となりを説明している。それによって、自分と聴衆の間に信頼感を築いているのだ。

 人間は本能的に、他人を信頼する理由を探す。しかも、かなり短時間で探そうとする。私たちの先祖は瞬間的に、見知らぬ人が敵か味方かを判断した。自分の主張を展開する前に、自分がほかの人々の幸福を大切にしていることを伝えるだけで、信頼を得られるだろう。

(2)ロゴス/理性

 自分の人柄を明確にしたら、次は理性に論理的に訴えかける。

 聴衆はどうして、あなたのアイデアに耳を傾ける必要があるのか。たとえば、聴衆の貯蓄につながる話なら、あなたのアイデアを聞いてどのくらい貯まるのか。実際にどうやって貯めるのか、彼らは知りたいだろう。お金を稼ぐ話でも同じだ。あなたのアイデアを参考にしたら、どのくらいの利益を手にできるのか。実際に、どのような行動を取ればいいのか。

 こうした論理的な説明は、あなたに対する支持を集めるだろう。データや証拠、事実に基づいて、理にかなった主張を組み立てよう。

(3)パトス/感情

 アリストテレスによれば、感情が欠けると説得はできない。人は、話し手が自分たちにどのような感情を抱かせるかによって、行動しようという気持ちになる。感情を人から人に伝える最善の方法は、ストーリーテリングの修辞的な技法だと、アリストテレスは考えた。

 その2000年以上後に、神経科学者が、彼の主張が正しいことを証明した。複数の研究によると、ストーリーは脳神経に化学作用をもたらす物質を放出する。特に知られているのは「道徳分子」とも呼ばれるオキシトシンで、より深い感情的なレベルで人と人を結びつける。

 私はTEDでも特に人気のあるトーク500本を分析した。それによると、平均的なスピーカーのトークは、全体の65%がストーリー、25%がロゴス、10%がエートスで構成されている。言い換えれば、TEDトークで人気を集める方程式は、重要なアイデアをストーリーでくるむことだ。

 では、どのようなストーリーがよいのか。TEDのクリス・アンダーソン代表は、次のように語っている

「理想的な(心の)結びつきを生み出すストーリーは、自分や自分に近い人の個人的なストーリーである。失敗、不器用さ、逆境、危険、大惨事などについて本音で語れば、より短時間で深いエンゲージメントを築くことができる」。個人的な内容ほど、深い関連性が生まれる。

(4)メタファー

 アリストテレスは、メタファーは言葉そのものの美しさを引き出すと考えた。「何よりも偉大なのは、メタファーの達人だ」とも書いている。メタファーや類似性を使って、新しいアイデアを聴衆が知っているものと比較すると、抽象的なものが具体的なものになり、あなたのアイデアが明確になる。

 説得術を知り尽くして、それを実践しているウォーレン・バフェットのエピソードを再び紹介しよう。彼はインタビューで自分の主張を説明する際に、ほぼ必ずメタファーを使う。たとえば、投資家がよく「掘に囲まれた企業」を探していると言うのも、バフェットの有名なメタファーから来ている。堀に囲まれていて、競争相手がその業界に参入しにくい「経済の城」を築いている企業が好ましいと、彼は繰り返し言及している。

 最近では2017年のバークシャー・ハサウェイの年次株主総会で、バフェットは高騰する医療費を、米経済の競争力をむしばむ「サナダムシ」だと言った。この直情的なメタファーは、私たちの経済システムを侵食する深刻な問題を的確に表現している。寄生虫が成長したらどうなるか、説明する必要はなかった。年次株主総会を取り上げた新聞やブログの見出しには、「サナダムシ」の単語が並んだ。

 メタファーの達人は、言葉を、自分のアイデアを他人が明確に理解しやすいイメージに変えることができる。しかし、それ以上に重要なのは、そのイメージが人々の記憶に残って共有されることだ。これは強力なツールになる。

(5)簡潔さ

 ここでも、アリストテレスは時代の先を読んでいた。「アリストテレスは、1人の人間が吸収して維持できる情報の量には、きわめて普遍的な限界があることを見抜いていた」と、ロンドン大学キングス・カレッジのエディス・ホール教授は著書 "Aristotle's Way"(未訳)で書いている。「説得に関しては、言葉が少ないほど効果がある」

 簡潔さは、説得力のあるスピーチで特に重要な要素となる。議論は「可能な限り少ない言葉で簡潔に」表現すべきだと、アリストテレスは言った。さらに、スピーチで最も重要なのは冒頭の部分で、「始まり以外は、注意力は常に落ちる」からだとも述べている。つまり、いちばん強調したい要点から始めるのだ。

 嬉しいことに、説得力は学んで身に着けることができると、アリストテレスも考えていた。彼がレトリックを民衆が使えるツールにしたことに対し、古代ギリシャの政治家は「かなりの脅威」を感じた。自分たちだけの秘密にしておきたかったのだ。

 だが、アリストテレスは誰でも使えるようにしたかった。効果的に話したり書いたりする能力や、レトリックの技法を使って他人の視点を変えるスキルが、人間の可能性を解き放ち、最大限の幸福をもたらすことができる。アリストテレスは、そのように考えていた。

 私たちがアイデアを伝えるために使うツールは、2000年の時を経て変わってきたが、人間の脳は変わっていない。アリストテレスの時代と同じ説得術の方法は、現代でも役に立つだろう。


HBR.org原文:The Art of Persuasion Hasn't Changed in 2,000 Years, July 15, 2019.

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カーマイン・ガロ(Carmine Gallo)
ハーバード大学デザイン大学院のエグゼクティブ教育学部講師。著書に、Five Stars(未訳)、『TED 驚異のプレゼン』『ビジネスと人を動かす 驚異のストーリープレゼン』などがある。ニューズレターの登録はcarminegallo.com 、ツイッターは@carminegallo