経営者はみな、イノベーションを求めている。だが、それを実践するのは容易ではない。人材不足や資金不足、組織のサイロ化など、変革を阻む要因はいくつもある。それらの障壁を乗り越え、自身が創造性を発揮するだけでなく、周囲がイノベーションを生む環境づくりをするには、どうすればよいのか。チームメンバーの変革を加速するための方法論として、筆者はあるグループワークの実施を提唱する。


 あなたの会社は、それを必要としている。あなたはそれを社員に求めるし、そのために社員を刺激する。だが、結局それは手に入るのか――。

「それ」とはイノベーションのことである。コンファレンスボード(全米産業審議委員会)の2018年の調査によると、企業経営者たちの最大の心配事は、「破壊的テクノロジーに適応する新しいビジネスモデルを構築すること」だった。

 残念ながら、多くの企業が(独創的な企業でさえ)、みずからの業界の急激な変化についていくのに苦労している。たとえば、動きが速く、時代を先取りしていると広く見られているスターバックスでさえ、2018年秋、ケビン・ジョンソンCEOが「イノベーションのスピードを高める」必要性があるとして、リストラを発表した。

 既存の企業が、イノベーションを起こすのに苦労している理由はたくさんある。サイロ化した組織構造、曖昧な戦略、適切な才能の人材不足、資金不足などだ。より「ソフト」な要因もある。たとえば、社員がクリエイティブに考えるのに必要な時間と余地を与えない、チーム文化や企業文化だ。

 優れたリーダーは、このハードルをどうやって乗り越えているのか。筆者はこの10年間、クリエイティブなボスの研究をしてきた。映画監督のジョージ・ルーカスや、ヘッジファンドのジュリアン・ロバートソン、ファッションデザイナーのラルフ・ローレンなど、イノベーションを生み出すだけでなく、自分以外の人がイノベーションを生み出す環境をつくることに長けた人たちだ。

 同じようなことを自分の組織でも起こす方法を相談されたとき、筆者が強調するのは、「最初から大掛かりにやらなくてもいい」ということだ。そして手始めに、筆者が「変化ノート(change notebook)」と呼ぶグループワークを勧める。