今月号は、「働き方や生き方を、幸福の観点から見直してみましょう」という特集です。働き方改革についての、本質的な問題提起です。個々人の立場で働き方を見直すことから始めて、マネジメント論へと進んでいきます。米国のマネジメント誌HBRですので、幸福論といえども、「時間をお金に換算してその価値を再認識する」という、プラクティカルなアプローチ。目から鱗が落ちるような、ユニークな視点と提言です。


 特集の論文によれば、米国では、時間にゆとりがあると感じる人の割合が、過去最低水準にあります。原因は長時間労働にあると思われるかもしれませんが、実際には従業員が自己コントロールできる時間は増えています。

 では、なぜ、「時間がない」という感覚が強いのでしょうか。「お金が幸福をもたらすと考え、より多く稼ぐために、少しでも多くの時間を使ってしまう」という罠に人々や社会がはまっているため、と特集の主筆であるハーバード・ビジネス・スクール助教授のアシュレー・ウィランズ氏は主張します。

「多忙であることは、要職に就いていることの証と考えられている(ため、そう振る舞う)」「時間節約のためにお金を使うのはバツが悪い」などの認知バイアスが、人々の行動をゆがめています。

 ボーナスなどの成果報酬や、時間の金銭価値を意識させる「制度や規則」も、お金への執着心を高めていると論じています。

 経済的に豊かになればなるほど、時間的ゆとりがなくなる関係にあります。お金を発明して、使い始めた人類の宿命という面があるかもしれません。

 こうした時間とお金と幸福についての関係を、多くの調査と分析に基づいて、ていねいに検証しているのが、特集の1~5の論文です。そのうえで、人と社会を捕まえている罠から脱するための具体的な方法を、提案します。

 特集6番目は、人材育成施策で評価の高いカルビー常務執行役員の武田雅子氏へのインタビューです。ご自身のがん罹患や鬱の経験から得たことをもとに、思考・身体・精神の3つの面でベストなコンディションを保つことや、バイアスを排除して自己認識や内省を深めるセルフ・アウェアネスの効果などを、お話しいただきました。個人としても、マネジャーとしても、参考にして、今日から活用できる内容です。

 特集7番目は、社会的ニーズや働きがいが高い職業である一方、過労などが深刻な問題である医師の労働環境を、仕組みの変革などにより改善しているメディヴァの代表、大石佳能子氏が、その方法と要諦を論じています。医療関係業務はもちろん、社会全般の働き方改革のモデルとして示唆の多い論文です。

 働き方の改善には、まずは経営者をはじめとしたマネジャーが変わることが必要です。マネジャーが仕事の現場から乖離していることを問題視して、マネジメントを正さなくてはいけないと主張するのが、マギル大学教授のヘンリー・ミンツバーグ氏。来日時の独占インタビューを巻頭に掲載しています。

 特集とは別のHBR論文として、深い洞察で、働き方や生き方を論じているのが「『中年の危機』には哲学がよく効く」です。

 また、「デザイン思考には強いリーダーシップが必要だ」は、多くの人が導入を試みて戸惑いを覚える、デザイン思考の難点を克服する解を示していて、とても実践的な論文です。