リーダーとして世界で最も過酷な重責に晒されるポジションの一つに、米国国防長官の役職を挙げることに違和感を持つ人は少ないだろう。アシュトン・カーターは、米軍がアフガニスタンで病院を誤爆した際に長官を務めるなど、通常では経験しえない重大な危機に幾度となく直面し、それを乗り越えてきた。本稿では、企業リーダーにも有効なリスクマネジメントの5つの教訓を示す。
2015年10月のある日曜日の早朝、私は米国防総省特殊仕様のボーイング747型機で外国に向かっていた。そこに、アフガニスタン北部の町クンドゥズで爆撃を受けた病院の最初の映像が入ってきた。
病院は国境なき医師団(MSF)が運営していたものだ。まだ100%確実ではなかったが、米軍の誤爆だという声が上がっていた。MSFはただちに、この爆撃は「国際人道法の重大な違反」だと非難する声明を発表した。
すでに私のスタッフが、爆撃があったことを認める声明を出していたが、飛行機に同乗していた記者団は、国防長官としてもっと何かを言うべきだと要求した。
その時点では、テレビの報道と、クンドゥズで戦闘機を運用しているのは米軍だけだという現地司令官の報告以外に、私たちも確実な情報は持ち合わせていなかった。だが、炎に包まれた病院の映像が世界中に配信され、複数の死者が出ていると報じられているなか、機内にふんぞりかえって、何もコメントを出さないわけにはいかなかった。それに何が起きたか認めなければ、アフガニスタン国内で暴動が起きるなど、深刻な国際的反発を招く恐れもあった。
私は記者団がいるエリアに戻ると、クンドゥズにおける「明らかに悲劇的な状況」に言及するとともに、「完全かつ透明な」調査を開始したことを明らかにした。また、「このような事故があったときは常にそうであるように、必要に応じて責任が問われる」ことを約束した。
さらに、私が命じた措置についても説明した。これは、意図せず民間人に犠牲が出たとみられる場合に、国防総省が取る通常の初動措置で、その声明自体は大した内容ではなかった。しかし端緒は開いた。
やがて国防総省の調査の結果、死者42人、負傷者37人を出したその事故は、米軍の攻撃機のクルーによる手順ミスと、電子機器の故障が重なったことが原因だったと判明した。オバマ大統領と私は、MSFの会長に直接謝罪し、遺族に弔慰金を支払い、病院再建に570万ドルを寄付した。誤爆に関与した米兵16人が懲戒処分を受け、再発防止措置が取られた。
クンドゥズの一件は、政府高官だけが直面するタイプの問題だ。国家安全保障は、人の生死に関わる判断が日常的に必要とされる領域であり、それにゆえに極端に厳しい精査を受ける。
これは、米国最大の機構である国防総省に特に言えることだ。国防総省の雇用数は計2870万人ほどで、アマゾンとマクドナルド、FedEx、ターゲット、そしてゼネラル・エレクトリック(GE)の社員を全部合わせた数よりも多い。さらに国防総省は、アップルとグーグルとマイクロソフトの合計よりも多くの研究開発を行なっている。
このため、組織の複雑性という点では、国防総省は別格の存在かもしれない。しかし、組織の評判(と場合によっては存続)を脅かす重大な危機に直面する可能性があるという点では、どの組織のリーダーも変わらないだろう。
企業は、顧客データの流出から旅客機の技術問題まで、さまざまな危機に直面する恐れがある。私の経験では、そうしたときに最善の防衛策となるのは、コミュニケーション戦略を練っておくことだけでなく、誠実さと説明責任、そして粘り強さをもって問題に対処するよう促す、職場の文化だ。
このような基礎は、危機対応の信頼性を確保するうえで必要不可欠となる。実際の危機に見舞われたとき、私が国防総省を動かしていた際に心がけていた教訓が役に立つかもしれない。そこで、私の危機対応時のチェックリストを紹介しよう。