だが、週4日労働はまだ万能薬とは言えない。
雇用主としてのブランドという面では競争優位をもたらすが、アンケートの結果を見ると、ビジネスリーダーの4分の3近く(73%)が問題点を指摘している。労働契約に関する法的規制、週4日労働実施のための関連手続き、さらには人員確保に関する問題である。こういった点から、我々が分析する限りでは、週4日労働が近い将来、広く普及する可能性は高くない。
すでに週4日労働に向けた努力を放棄した組織もある。2019年、ロンドンに本部を置くウェルカム・トラスト(世界第2位の研究資金支援財団)は、800人の本部スタッフに対する週4日労働制を打ち切った。「実施するのが業務上、あまりにも繁雑」だからである。また米国では、大手IT人材企業のトリーハウスが2016年に週4日労働を実施したが、同業他社との競争に後れを取ったために、週5日労働に戻している。
ウェルカム・トラストが週5日労働に戻って以降、英国産業連盟などの団体は、週の労働時間を減らすと産業が弱体化すると同時に労務費が増大して、雇用に悪影響を与えると警告している。
たとえば、スウェーデンの公的医療の例を見てみよう。イェーテボリ市は2015年に1日6時間勤務を実施したのだが、そのために追加の看護師を雇わねばならず、130万ドルのコストが発生した。反対派は、経済的に持続可能ではない方式に納税者の金をつぎ込むのはアンフェアだとして、市にこの制度を廃止する動議を提出した。制度は2017年に廃止され、イェーテボリ市で高齢者医療を担当するダニエル・ベルンマー議員は「この制度に再挑戦できると思うかって?答えはノーだ。コストが高すぎる」と述べた。
労働者自身にも、ためらいがある。アンケート回答者の半数近く(45%)は、職場にいる時間を減らすと同僚から怠けものと見なされるのではないかと不安を抱いている。週4日労働について、労働者からの見方にパラドックスが存在することを示唆している。実施を望む一方で、自分が最初にそうするのは怖いのだ。
英国での最近の試みは、週4日労働に関する議論がまだ始まったばかりであることを示している。従業員の幸福度と集中力については明確なプラスの影響があるものの、産業分野によっては競争上、組織構造上の圧力があるため、多数の組織にわたる広範な実施は難しくなっている。さらに週4日労働にはまだいくぶんネガティブなイメージもあるし、労働者が同僚や上司の目を気にするという問題もある。
とはいえ、このアイデアには真剣な検討が必要であり、プラス面の可能性からして、トライ・アンド・エラーのアプローチが最善の策だと考えられる。そうすれば週の労働時間短縮がどういう条件下で成功し、プラス面がマイナス面を上回るのか、よくわかるようになってくるだろう。
週4日労働の問題点を最初に解決できた国や組織があれば、長期的な幸福度というプラス面を最大にし、短期的な労務費用とオペレーション費用の増加を最小にする形で実施することで、競争優位を築くことができる。
HBR.org原文:Will the 4-Day Workweek Take Hold in Europe? August 05, 2019.
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ベン・レイカー(Ben Laker)
レディング大学ヘンリー・ビジネススクール教授でリーダーシップを専門とする。ブルームバーグとスカイ・ニュースの国際情勢コメンテーターも務める。英国のEU離脱問題に詳しく、英国政府および世界中のグローバル企業のアドバイザーを務める。ツイッター@drbenlakerでも発信中。
トーマス・ルーレット(Thomas Roulet)
ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクールの組織論を専門とするシニアレクチャラーであり、同大学ガートン・カレッジのフェローも務める。さまざまなメディア(英『テレグラフ』紙、仏『リュマニテ』紙、独『ディーツァイト』紙など)で英国のEU離脱問題を社会学的に分析している。ツイッター@thomrouletでも発信中。