メンタリングを実践する際、キャリアに関するアドバイスを行う人は多いだろう。だが、メンティー(相談者)の潜在力を十分に引き出すには、上司や部下という関係性を超えた一人の人間として捉えて、キャリアだけに固執しないアプローチのほうが有効である。全人格的なメンタリングを実践するための8つのポイントを示す。
リーダーを目指す人々は、いま現在よりも多くの、さらに優れたメンタリング(対話・助言を通じての成長促進)を受ける必要がある。
最近の調査によれば、米国ではその需給バランスがまったく取れていない。働く男女の75%はメンターを欲しているが、実際にメンターがいる人は37%にとどまる。そのうえ、いまメンターの役割を担っている人のほとんどは、さほど大きな効果をもたらすことができていない。なぜなら、キャリアの進展という狭すぎる視野に囚われているからである。
私は2018年、スタンフォード大学の研究司書と一緒に数時間をかけて、メンタリングに関する記事、研究論文、書籍を見つかる限り引っ張り出してみた。
その結果、ほとんどの文献は、メンタリングが職場でどう実践されているか、および全社的制度としてどう運営されているかに焦点を置いていることがわかった。キャリアに関する事項を超えて、態度・行動、価値観、人間関係、子育て、金銭管理、さらには生活の精神面をも含めて話し合う、「全人格的なメンタリング」の方法に関する分析や助言は、驚くほど少なかったのである。
私は35年にわたりウォール街の企業幹部として、多くの同僚や友人のメンターを務めてきた。現在はリーダーを対象に、世代を超えた人間関係の構築を支援する非営利組織の代表を務めている。
これらの経験を通して学んだのは、メンティー(相談者・被育成者)の真の潜在能力を引き出すには、より包括的なアプローチのほうが格段に効果があるということだ。実際、それこそがメンタリングの利点の一つであり、スキル開発やパフォーマンス向上のためのコーチングとは異なる点である。
相手を一人の人間と捉え、全人格的なメンタリングを行うには、より多くの努力、時間、思慮が必要となる。うまく実践するための練習法を、以下にいくつか挙げよう。