LGBTに対する理解が深まっていることは確かだろうが、世界の足並みが揃っているわけではない。国ごと地域ごとの価値観が色濃く反映されるため、台湾では同性婚が合法化された一方、ケニアでは同性の性交渉が刑法で禁止されている。では、LGBTを支持する多国籍企業が、その価値観に批判的な国でビジネスを行う場合、どうすればよいのだろうか。


 ストーンウォールの反乱[訳注1]から50周年を迎える今年のニューヨークシティ・プライド・パレードが終わり、街角に掲げられていたレインボーの旗が降ろされた。世界各地のプライド・イベントで虹色の旗が振られるようになったいま、あらためて考える価値があるだろう──世界的なLGBTの権利運動について、私たちはどのような立場を取るのか。

 今年は特に、複雑な状況が続いている。エクアドルや台湾のように同性婚が合法化された国が増える一方で、停滞または後退している国もある。ケニアの高等法院は、同性の性交渉に最高14年の禁固刑を科す刑法を維持する判断を下した。ロシア南部のチェチェン共和国では、LGBTに対する弾圧や人権侵害が悪化している。

 このように世界的な動向が定まらないなか、LGBTの価値観を支持する多国籍企業は、ある課題に直面している。すなわち、LGBTを受け入れることが地元の法律や文化と相反するときに、どのように取り組みを進めればいいのだろうか。

 ニューヨーク大学ロースクールのダイバーシティ・インクルージョン・ビロンギング・センターの研究チームは、大手グローバル企業のダウ、EY(アーンスト・アンド・ヤング)、マイクロソフトの従業員30人にインタビューを行い、ブラジルや日本、サウジアラビアなど、さまざまな国における取り組みを探った。

 彼らの証言を通して、これら3社の経営陣がLGBTの価値観を支持するうえで、地元の規範に従う、自社の従業員のためにインクルーシブな環境を構築する、より広い社会で変化を推進する、という3つの段階を経て前進していることがわかった。

 社内でLGBTを支持する土壌を育て、細やかな配慮をしながら創造的に行動することによって、企業はLGBTのインクルージョンを促進できる。確かな法的保護があって社会で広く受け入れられている地域だけでなく、むしろ、そのような環境が整っていない多くの国でこそ、彼らの努力が影響を及ぼすだろう。