
大学の授業料の高騰に伴い、働き始めてからも奨学金の返済に苦しむ学生が増えている。また、企業がデジタル分野の即戦力を求める一方で、卒業までに4年間を費やしても、希望の職に就くためのスキルを身につけられないという課題もある。まもなく大学入学年齢を迎えるZ世代にとって、大卒資格の魅力がますます低減していると筆者は指摘する。
大学は過去25年間で大きく変化した。
まず、大学教育が経済的に手の届かないものになるという、喫緊の課題が挙げられる。授業料高騰のため、米国の平均的な学生は約3万ドルの学生ローンを抱えて卒業する。また、学生が学業をまっとうできず、入学者の約50%しか学位を取得できていないという問題も存在している。
そしてもう1つが「エンプロイアビリティ(employability)」、すなわち雇用されうる能力についても、危機に瀕している。最近の新卒者の40%以上は、最初の職で大卒の能力以下の職に就いているのだ。さらに、最初に能力以下の職に就いた人の3分の2は、5年後も能力以下の職にとどまり、半数は10年後も同じ状態にいる。
能力に見合わない雇用とキャリアパスの問題が深刻化するなか、大学側は雇用者が求めるデジタルスキルにまったく追いつけずにいる。
世界経済フォーラム(WEF)によると、必要なデジタルスキルを備えた人材を確保していると考えているのは、中小企業の27%、大企業の29%にすぎない。また、米経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」に参加する企業のCEOの4分の3は、STEM関連分野の職にふさわしい人材がいないと答えている。
デロイトよれば、英国では「デジタル分野のリーダー」のうち、自社の従業員にはデジタル戦略を実行する十分なスキルがあると答えたのは、たったの25%だ。別の調査では、経営幹部の80%がデジタルスキルの格差を非常に懸念しているという結果が出ている。
とりわけ、米国のミレニアル世代が抱える経済問題は悲惨ともいえる。債務者全体では約57%がローン返済中だが、2006年から2011年にかけて卒業した債務者の3分の1が、債務不履行に陥っている。また、成人における若年層の持ち家率や起業率は低下している。
大学入学年齢に達しつつあるZ世代は、ミレニアル世代が置かれている状況を見て、Z世代が目指してきた目標、すなわち卒業後は経済成長分野(おそらくデジタル関係)で条件のよい仕事に就くという目標を達成するのに、従来の4年制大学が最適かどうか考えあぐねている。
Z世代の気持ちとしては、より早く、より費用をかけずに、条件のよい最初の仕事に至る道筋は、時間も費用もかかる大卒資格(特に難関校ではない大学)以外のものに、いつ代わってもおかしくない。
彼らはすでに、大きな先行投資に対して否定的な先入観を抱いている。アプリ一つで呼び出せるのに、なぜ車を買うのか。あるいは、ストリーミング配信で個別のネットワークや番組を視聴できるのに、なぜパッケージ化されたケーブルテレビに加入するのか、といった疑問を抱いているのだ。
シェアリングエコノミーの影響から、5000億ドル規模の高等教育業界も無傷ではいられない。Z世代は、まず出世の階段の1段目に足を乗せること、すなわち借金をせずに条件のよい仕事に早く就きたいと考えている。認知能力を高め、マネジャーになり、さらに昇進するために、どの中等教育・高等教育に進むかを決めるより前に、である。
高等教育を受ける人を減らせ、と言っているのではない。それは、今日のグローバルな知識経済ではナンセンスなことだ。むしろ、どのように高等教育を取り込むか、すなわち必要なものを必要なときに、1度で取り込めるように設定し直すことが大切である。
そこで、従来の大学に代わる短期間で安価な選択肢が登場し始めている。